(陰気な山道の途中にある筧から聞こえる見えない澄み切ったせせらぎに魅力を感じる)この美しい水音を聴いていると、その辺りの風景のなかに変な錯誤が感じられて来るのであった。《…略…》澄み透 った水音にしばらく耳を傾けていると、聴覚と視覚との統一はすぐばらばらになってしまって、変な錯誤の感じとともに、訝 かしい魅惑が私の心を充たして来るのだった。
梶井基次郎 / 筧の話 ページ位置:50% 作品を確認(青空文庫)
この表現が分類されたカテゴリ
川の音(せせらぎ)
ギャップ・際立つ
しおりに登録する
前後の文章を含んだ引用
......ても静かだったある日、それを聞き澄ましていた私の耳がふとそのなかに不思議な魅惑がこもっているのを知ったのである。その後追いおいに気づいていったことなのであるが、この美しい水音を聴いていると、その辺りの風景のなかに変な錯誤が感じられて来るのであった。香もなく花も貧しいのぎ蘭 がそのところどころに生えているばかりで、杉の根方はどこも暗く湿っぽかった。そして筧といえばやはりあたりと一帯の古び朽ちたものをその間に横たえているに過ぎないのだった。「そのなかからだ」と私の理性が信じていても、澄み透 った水音にしばらく耳を傾けていると、聴覚と視覚との統一はすぐばらばらになってしまって、変な錯誤の感じとともに、訝 かしい魅惑が私の心を充たして来るのだった。 私はそれによく似た感情を、露草の青い花を眼にするとき経験することがある。草叢 の緑とまぎれやすいその青は不思議な惑わしを持っている。私はそれを、露草の花が青空や......
単語の意味
風景(ふうけい)
暫く・姑く・須臾(しばらく)
風景・・・自然の景色。目の前に広がる眺め。その場の情景。
暫く・姑く・須臾・・・1.長いと感じるほどではないが、すぐともいえないほどの時間。ちょっとの間。一時的。
2.ちょっと待った!
2.ちょっと待った!
ここに意味を表示
川の音(せせらぎ)の表現・描写・類語(音の響きのカテゴリ)の一覧 ランダム5
小川のせせらぎが、どこか遠くから響いてくるように眠たげ
山本 周五郎 / やぶからし amazon
どうどうと水の流れる音
綿矢 りさ / かわいそうだね?「かわいそうだね? (文春文庫)」に収録 amazon
壁越しに聞く人の呟きのようにひそやかで、しめやかで、親しげな水のせせらぎ
大岡 昇平 / 野火 amazon
このカテゴリを全部見る
ギャップ・際立つの表現・描写・類語(状態・状況のカテゴリ)の一覧 ランダム5
目はやさしく笑っていたので、私はシーンの内容とのギャップに少し肌寒さを覚えた。
朝井 リョウ / もういちど生まれる「もういちど生まれる (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
夏目漱石 / 吾輩は猫である
鬼のような体格を持っていて、女のような弱虫《…略…》こんな心でこんな体格を持っているのが先天的の二重生活をしいられるようで苦しいんです。これからも僕はこの矛盾のためにきっと苦しむに違いない
有島武郎 / 或る女
純朴な住民たちのおだやかな明け暮れと、死に向う若者たちを乗せて空に飛立つ戦闘機の轟音とが、どうしても一つに溶け合ってこない
池波 正太郎「食卓の情景 (新潮文庫)」に収録 amazon
このカテゴリを全部見る
「音の響き」カテゴリからランダム5
穏やかな光をもたらしてくれるような音楽
瀬尾 まいこ「そして、バトンは渡された (文春文庫)」に収録 amazon
「水面・水中・水辺」カテゴリからランダム5
巨大な流木が奇怪な骸骨のように砂に寝そべって、濃い長い影を水の上に吹き流す
本庄 陸男 / 石狩川〈上〉 amazon
川は 気紛れに岸に当って 淵 を作り、または白い瀬となって 拡がった。
昇平, 大岡「野火(のび) (新潮文庫)」に収録 amazon
「状態・状況」カテゴリからランダム5
(河の)塵芥 に混って鳩の死んだのがまるで雲をちぎったように流れていっていた。
林芙美子 / 新版 放浪記
なんでもなさそうに訊ねた。
村上春樹 / 象の消滅「パン屋再襲撃 (文春文庫)」に収録 amazon
同じカテゴリの表現一覧
音の響き の表現の一覧
水面・水中・水辺 の表現の一覧
状態・状況 の表現の一覧
感覚表現 大カテゴリ