黒い煙突の煙が空をよごしている。

煙筒からは煙草の煙よりも細い煙が風のない空に、毛糸のように上っていた。

帆柱のように林立する煙突

墨のように煙突が煙を吐く

煙突から乳色の煙がゆっくり空にながれていく。

最上階の窓からは、広い場所に薄く撒かれたような光の粒が見える。

家族で切り盛りしている超零細。会社というより自営業。

（遠くに見える歓楽街の光）心の中には、幸橋の上から 眺めた道頓堀の遠い 光芒こうぼう が映し出された。 眩まば ゆく華やかな眺めであったはずだったが、邦彦には、かつて見たこともない冷え冷えとした、ひどくちっぽけな景観として心に 甦って来るのである。 　色とりどりの光をまとった船が、暗い海原に出航して行き、それを視界から消え去るまでじっと見送っていた、そんな空虚な寂しさがまといついて、邦彦は幸橋から見えていた夜の道頓堀が、人気のない一 艘そう の満艦飾の船みたいだったように思えるのだった。

人と話すときのいつものくせで、中指で何度もメガネを押し上げた。

バスタブに熱い湯をはって裸になり、そこにゆっくりとからだを沈めた