「空気がいい故（せい）と見えて、こっちへ来たら不眠なんぞすっかり忘れたようになってしまったよ」

三階以上ある建物なんて学校しかなかった

タヌキがたまに出るところに住んでいる

新潟という地も、降り積もる雪も、信雄にとっては未知な、それでいて妙に寂しげな響きを持つものであった。

とにかく、春の勢いはすごい。これまではモノクロにくすんでいた画面に、一瞬で色がつくみたいだ。どんな特撮技術を使っても、この鮮やかな景色の変化は表現できないだろう。 　変化は景色だけじゃなく、においにも音にも表れる。冬のあいだは硬く冷たく流れる川が、草木が芽吹きはじめるのとほぼ同時に、さらさらと優しい音に変わる。水は澄みわたって、甘い香りがする。金色に輝く川底の砂に、透明なメダカの群の影が映っているのを発見し、俺は思わず声を上げてしまった。 　なんかこう、春はすべてにメリハリがつくって感じだ。繁ばあちゃんの大群に包囲されてるのが冬だとしたら、百人の直紀さんがバイクに乗って、山を駆けめぐってるのが春だ。張りがあって騒々しい。

ようやく故郷の地を踏んだ。 　あんまり長いことはなれていたせいで、懐かしいという感慨もわかなかった。

昔通っていた学校まで足を延ばしてみたり、湖畔や旧市街を散歩したりしていると、自分の中にまだ残っていた十代の頃の感情が蘇って来るようだった。

「行（ゆ）きたい」のではありません。「帰りたい」と思い出したのです。河童の国は当時の僕には故郷のように感ぜられましたから。

なつかしい空気を吸う。

町々の美しいあかりを見ると私はたまらなくなつかしくなった。何だか赤ん坊になって生れ故郷へ帰ったような気持ちになって

硯を立てたような山容である。

桑畑が、黄葉の少しばかりを残した針のよう

巨大な桃の種を転がしたような岩

平凡な五十三次風（つぎふう）な景色が、電柱で句読（くとう）を打ちながら、空洞（うつろ）のような葉子の目の前で閉じたり開いたりした。

昔金持ちだったことをいまだに自慢している島国

Ｍ病院を見上げた。窓ガラスが全部一度にきらめいて、目が痛かった。

家の両隣も新築で、灰色の細長い洒脱な家に挟まれた青い瓦屋根の彼の家は、誰も使わないのになぜかうちの棚にずっと置かれている、古い手動の鉛筆削り器に似ていた。

照明のおかげで黄金色に輝くエッフェル塔

ビル全体が閑散として、人気もあまりない

白魚のくねったように細長く湾曲している町の姿