その座布団は彼の幼時からの記憶につながれていた。同じ切れ地で夜具ができていたのだった。

僕たちが共有しているものは、ずっと昔に死んでしまった時間の断片にすぎなかった。それでもその暖い想いの幾らかは、古い光のように僕の心の中を今も彷徨いつづけていた。そして死が僕を捉え、再び無の坩堝に放り込むまでの束の間の時を、僕はその光とともに歩むだろう。

思い出したらあまりの生々しさにちょっと泣きそうになった。

思い出を幸福なもののように心に抱き温める

（思い出になる）新しいことが始まっていた。いつのまにパパとママを思い出の霧の中に置き去りにして。

十七歳のユキの姿は、武内の心に 灼きついて消えない映像のひとつであった。

（旅の思い出話を）話している間じゅう水島の目は、幻を追うようにうっとり見開かれている。

私はまだ「お母さん」を思い出せていないことを痛感した。 　不安というよりも、何もかもがぼんやりと浮いていた。自分にまつわるすべてがとても遠いことのように思えた。

「地道が盗聴器を仕掛けたんだ」 　あ、と雪子は声を上げそうになる。 　瞬間的に、バッグに入れてある携帯電話のことが頭に浮かんだ。 　答えを見せられた途端に、試験問題の解法が分かるようなものだった。

忘却する