顔立ちの整った隙のない風采

夫人は髪や服装を現代にはしているが、顔立ちは鹿鳴館時代の美人の系統をひくものがあった。

頬や顎のふくらみにはやっぱり若さの雫（しずく）が滴（したた）っていた。

ひとりがすれ違いざまに、 「きれいやなァ」 　と叫んだ。すると別の男が、 「さくらんぼみたいや」 　と奇声をあげて振り向いた。

こざっぱりと垢抜けした顔

暗い所にいて明るいほうに振り向いた時などの愛子の卵形の顔形は美の神ビーナスをさえ妬（ねた）ます事ができたろう。顔の輪郭と、やや額ぎわを狭くするまでに厚く生（は）えそろった黒漆（こくしつ）の髪とは闇（やみ）の中に溶けこむようにぼかされて、前からのみ来る光線のために鼻筋は、ギリシャ人のそれに見るような、規則正しく細長い前面の平面をきわ立たせ、潤いきった大きな二つのひとみと、締まって厚い上下の口びるとは、皮膚を切り破って現われ出た二対（つい）の魂のようになまなましい感じで見る人を打った。

バランスの正しい上品な美貌

やつれた顔に深い悲しみを湛えた老婆を見るのはなんとも心が痛む

顔全体の印象は、整いながらも特徴はというものはないが、どことなく活活（いきいき）していて、何かの拍子に浮かべる表情が、非常に眉の辺りを美しく見せた

横から見るとずいぶんしゃくれた中低の顔