桜が咲き乱れ、全山、雲の林のように見える中に、松の緑が混じっているのが、ことさら春めいて美しい

私の仕事初日を祝うかのように桜の花が咲き

明るい海の貝殻を無為に集めたように軽く爽やかな桜花の群がりよう

梅雨時の桜の葉のうっとうしく重なったような蓊鬱

（桜とバラの比較）ヨーロッパ人はバラの花を賞賛するが、私たち日本人はそれを共有する感覚は持ち合わせていない。バラには桜花の持つ簡素な純真さに欠けている。それだけではない、バラはその甘美さの陰にトゲを隠し、 執拗 に生命にしがみつく。まるで死を怖れるがごとく、散り果てるよりも、枝についたまま朽ちることを好むかのようにである。しかもバラは華美な色彩と濃厚な香を漂わせる。いずれをとっても桜花にはない特性である。 　私たちの愛する桜花は、その美しい装いの陰に、トゲや毒を隠し持ってはいない。自然のなすがままいつでもその生命を捨てる覚悟がある。その色はけっして派手さを誇らず、その淡い匂いは人を飽きさせない。

予感をたっぷり溶かしこんだ春の空気

冬枯の庭はいつか潤い、こまかに木の枝などを眺めると、仄かな艶や芽のふくらみが優しい早春を感じさせる日であった。

冬も過ぎて、梅が咲き椿（つばき）が咲くようになった。太陽の生み出す慈愛の光を、地面は胸を張り広げて吸い込んでいる。

雪どけで、道が餡（あん）このようにこねこねしている

柔かい風が木々の幼い緑をゆする