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山茶花さざんかの花ややつでの花が咲いていた。《…略…》日光に撒かれたあぶの光点が忙しく行き交うていた。《…略…》日溜りの少し離れたところに小さい子供達がなにかして遊んでいた。《…略…》堯はふと、これはどこかで見たことのある情景だと思った。不意に心が揺れた。揺り覚まされた虻が茫漠ぼうばくとした堯の過去へ飛び去った。
梶井基次郎 / 冬の日 ページ位置:31% 作品を確認(青空文庫)
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失われた記憶がよみがえる
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前後の文章を含んだ引用
......込んでいる郵便局は絶えず扉が鳴り、人びとは朝の新鮮な空気をき散らしていた。堯は永い間こんな空気に接しなかったような気がした。  彼は細い坂を緩りゆっくり登った。山茶花さざんかの花ややつでの花が咲いていた。堯は十二月になってもちょうがいるのに驚いた。それの飛んで行った方角には日光に撒かれたあぶの光点が忙しく行き交うていた。痴呆ちほうのような幸福だ」と彼は思った。そしてうつらうつら日溜りにかがまっていた。――やはりその日溜りの少し離れたところに小さい子供達がなにかして遊んでいた。四五歳の童子や童女達であった。 「見てやしないだろうな」と思いながら堯は浅く水が流れている溝のなかへ痰を吐いた。そして彼らの方へ近づいて行った。女の子であばれているのもあった。男の子で温柔おとなしくしているのもあった。おさない線が石墨で路に描かれていた。――堯はふと、これはどこかで見たことのある情景だと思った。不意に心が揺れた。揺り覚まされた虻が茫漠ぼうばくとした堯の過去へ飛び去った。そのうららかな臘月ろうげつの午前へ。  たかしあぶは見つけた。山茶花を。その花片のこぼれるあたりに遊んでいる童子たちを。――それはたとえば彼が半紙などを忘れて学校へ行ったとき、先......
単語の意味
茫漠(ぼうぼく)
情景・状景(じょうけい)
日光(にっこう)
虻・蝱(あぶ)
茫漠・・・ただ広いだけで無駄な感じ。ぼやけていて不明瞭な感じ。「茫」は「果てしなく広いさま」「ぼんやりしたさま」をあらわす字。
情景・状景・・・人の心を動かす風景や場面。
日光・・・日の光。大陽光線。
虻・蝱・・・アブ科の昆虫の総称。ハエに似ているが、少し大きい昆虫。ほとんどの雄は人や家畜を刺して血を吸い、病原体を媒介するとして忌まれている。
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