靴の音を規則正しくタイルの床に響かせる

足音がガランとした室内に楔（くさび）のように響きわたった

どこからともなく濁った足音が起きる

こつこつと靴音を立てる

夜の塵に覆われたまま静まりかえっている路地に、私たちの足音だけが高かった

縁の下で蚯蚓（みみず）でも鳴いているような心もち

あたりはめりこむように静かである。

この緑の中、静かな海辺、青空。音がしない。かすかなつぶやきのような自然の声があんまり多すぎて無音だ。

鼓の音は一度絶えて又起った。その静かな美しい音をきいているうちに私の胸が次第に高く波打って来た。 　陰気に……陰気に……淋しく、……淋しく……極度まで打ち込まれて行った鼓の音（ね）がいつとなく陽気な嬉し気な響を帯びて来たからである。それは地獄の底深く一切を怨んで沈んで行った魂が、有り難いみ仏の手で成仏して、次第次第にこの世に浮かみ上って来るような感じであった。 　みるみる鼓の音に明る味がついて来てやがて全く普通の鼓の音（ね）になった。しかも日本晴れに晴れ渡った青空のように澄み切った音にかわってしまった。

（三味線の音）風のように夢のように、かすかな律動でそよぎたつ糸の音

彼女はとても気持ちよさそうに、時間そのもののように滑らかに歩いている

はっと風を切って馳（か）けて行く。

散歩は一年中楽しめるものであるが、特に春先がいい。ポカポカ陽気の中を、何の目的もなくブラブラ歩くのは楽しい。《…略…》秋の枯れ葉を踏んでの散歩もわるくはないが、春先の散歩とは少し趣を異にする。 　散歩はやはり春先がいちばん。 　よその家の庭先の、ようやく咲き始めた梅や桃の枝ぶりを見あげながら、ブラブラ歩いて行くのは楽しい。

あたかも盗人のように足音を偸んで

婆は、犬に追っかけられた牡鶏（おんどり）のように、ふかふかした足どりで