ときおり遠くからバイクのエンジン音が木霊（こだま）してくるだけ。

音はなく、水底のように静かである。

音楽が止むと夜の静けさが引き立つ

雪の鳴るような静けさが身にしみて

嵐の前の静けさ

全てのものがうだってしまいそうな真夏の午後のひと時

巡査の制服は一気に夏服になった

わくわくした。そこに何か楽しいことがはじまるような感じさえした。そんなふうに夏の熱く長い一日がはじまるとき、私たちは終わることなど想像できない。陽が強すぎて、緑が濃すぎて、とてもそんな気持ちにはなれない。

晩夏の直射日光が降りそそぎ、うるさいくらいの蟬の鳴き声にしゃべる気も奪われる。

全てを溶かしそうな熟れた熱気

（チェロ）セロの音がごうごうひびく

鼓というものはその人の気持ちによって、いろんな音色を出すもの

（ピアノの）音色の細緻な階音に、まるで栗色の落葉でもふるような哀愁を感じた。

雨音が際だち、窓が風でがたがた揺れた。ずうっと、永遠に 嵐 が続くようなうるささだった。

電話はもう一度生物のように鳴り始めた。

太陽が人を打ちのめすように照りつける

陽射しが暑く、黒のワンピースが気のせいか重く感じる。

熱気で揺らめく通り

むせるような草いきれが顔を包む

秋はいつも嫌な季節だった。夏のあいだに休暇で街に帰っていた数少ない彼の友人たちは、九月の到来を待たずに短かい別れの言葉を残し、遠く離れた彼ら自身の場所に戻っていった。そして夏の光があたかも目に見えぬ分水嶺を越えるかのようにその色あいを微かに変える頃、鼠のまわりを僅かな期間ではあるがオーラの如く包んでいたある輝きも消えた。そして暖かい夢の名残りも、まるで細い川筋のように秋の砂地の底に跡かたもなく吸い込まれていった。