月の光が左の頬だけに当たって、左の顔だけしかないようだ

月光がこうこうと音を立てて、野の上の家を青い光の底に沈ませる

月が高い所で冴えた光を放っている

雪夜のように白い月光

月の光がまばゆいほど窓のガラスを光らせる

もの悲しいほど空が明るく晴れる

裾（すそ）のぼやけた、そして全体もあまりかっきりしない入道雲が水平線の上に静かに蟠（わだかま）っている。

間違いない。月は二個ある。　ひとつは昔からずっとあるもともとの月であり、もうひとつはずっと小振りな緑色の月だった。それは本来の月よりかたちがいびつで、明るさも劣っていた。行きがかりで押しつけられた、だれにも歓迎されない、貧しく醜い遠縁の子供のように見えた。

（未明の白い月）夜の月が卵の黄身だとしたら、未明の月は卵の殻、ううん、そんなに堅いものじゃないわ。グリンピースでいうと、丸い緑色の中身と、それを覆う半透明の薄い膜。

月が風に吹かれているようで、歪んだ高い窓から色々な光の虹（にじ）が私には見えてくる。