あのときの言葉が走馬灯のように頭を駆け巡る

これまでの人生が短編映画のように流れる。

（悪夢だけでなくフラッシュバックが起こる）夢の容量が飽和してしまったかのように、洋子はやがて、昼の 日中 に、何度か鮮烈なフラッシュバックを経験した。

唇に、あの頃よく飲んだカクテルの酸味がつんと甦ってくる。《…略…》いつもチャイナ・ブルー。はじめてバーに連れて行かれた夜に、カクテルの名前さえろくに知らない十和子のために黒崎がオーダーしてくれた。それは神戸の彼のマンションではじめて抱かれた夜でもあった。以来、グレープフルーツの酸味は、運命の夜の神聖さと強く結びついてしまっていた。

（PTSD）先ほどのフラッシュバックは、何か今までとは違って、思い出すというより、からだごと、あのイラクでの記憶の中に飲み込まれてしまったかのようだった。今いる場所の現実感を、短い時間とはいえ完全に喪失していた。

その時、僕はひらめいた。つむじのあたりから僕の立つ地面に向かって、光が刺し貫いたようだった。

会えないことにはふだん気づかないけれど、神様が髪の毛をそっとなでたみたいな、今のようなときに気づくことができる。すばらしい踊りを見ているときはっと気づくことがある。

天啓のように 閃く。

脳裏をかすめる

頭の中にさーっと稲妻が走る

見抜かれていたという思いからティエンの顔は、恥しさと怒りで赤くなった。

うんそうだと豁然大悟（かつぜんたいご）して

頭の中で火花がはじける

（あるほんとの運命的な出会い）ひら積みになった沢山の本の中で、ある分厚い本が私の目を引いた。 「哲学者の密室」笠井潔著……見たことも聞いたこともなく、普段私が読まない推理小説で、オマケにとにかく分厚い本で、手に取ってみたらずっしりと重かった。お金ももうなくて、それなのにどうして私はパンの本を 諦めてまでそれを買ったのだろう。 　それが運命というものだ。 　どうしても欲しい気がした。 　自分ではどこにあるかわからない、どうしようもなく遠くでも確実に触れるほど近い、ある部分が買え、買えと強く訴えるような感じがしたのだ。

胸をかすめる

パンチの効いた人

記憶の底から喚（よ）び起す。

故郷の山河が眼前に見えるような気がして来て

（忘れられない男）厳格清澄なかの女の母性の中核の外囲に、匂（にお）うように、滲（にじ）むように、傷むように、規矩男の俤（おもかげ）はかの女の裡（うち）に居た。

思い出をいっぱいに心に溜める