（カクテル）種々な酒を一つの器へ入れて蓋をして振っている。はじめは振っているがしまいには器に振られているような恰好をする。

グラスの中では澄んだ茶が氷の冷たい色に透けて、ゆっくりと溶けていた。私はそれを、じっと見ていた。心のピントが奇妙に何にでもうまい具合に合ってしまう夜がある。その夜がそうだった。もう酔いはじめていたのに、少しもそれが分散しようとしなかった。うす暗い店内と、靴音のように遠くから規則正しく寄せてくるピアノのメロディーが集中に拍車をかけた。

無口な方だが、バーテンダーとしての誇りと熱い思いを、精一杯お酒に込めているのが、ひしひしと伝わってくる

指をグラスの中に入れて氷をくるくるとまわした。僕はオン・ザ・ロックの氷がグラスにぶつかるときの音が好きなのだ。

青いネオン管に彩られた西麻布のショット・バー

シェーカーを振るバーテンダーは大げさな動きも自意識の過剰さもなく、ただ一分の隙も見せずにシェーカーからカクテルを注ぐ姿は、彼の白シャツの鋭角な襟と同様、客に緊張感を与えて少し居心地を悪くさせていた。

水を少し飲み、口を開きかけたところで、会話が途切れたのを見計らった店員が、デザートの注文を取りに来た。

公園の樹木の枝が影を作る

細い路地が商店街となって住宅地に延びている

ダイヴィング・プールではただ、水の膜を破る短い音が繰り返されるだけだった。