鼠(人名)にとっての時の流れは、まるでどこかでプツンと断ち切られてしまったように見える。《…略…》切り口をみつけることさえできない。死んだロープを手にしたまま彼は薄い秋の闇の中を彷徨った。草地を横切り、川を越え、幾つかの扉を押した。しかし死んだロープは彼を何処にも導かなかった。羽をもがれた冬の蠅のように、海を前にした河の流れのように鼠は無力であり、孤独であった。何処かで悪い風が吹き始め、それまで鼠をすっぽりと取り囲んでいた親密な空気を地球の裏側にまで吹きとばしてしまったようにも感じられる。
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 ページ位置:20% 作品を確認(amazon)
この表現が分類されたカテゴリ
時間の経過
孤独・一人ぼっち
しおりに登録する
前後の文章を含んだ引用
......・バー」に通い、カウンターに腰を下ろしてバーテンのジェイを相手に少しばかり冷えすぎたビールを飲み続けた。五年振りに煙草を吸い始め、十五分おきに腕時計を眺めた。 鼠にとっての時の流れは、まるでどこかでプツンと断ち切られてしまったように見える。何故そんなことになってしまったのか、鼠にはわからない。切り口をみつけることさえできない。死んだロープを手にしたまま彼は薄い秋の闇の中を彷徨った。草地を横切り、川を越え、幾つかの扉を押した。しかし死んだロープは彼を何処にも導かなかった。羽をもがれた冬の蠅のように、海を前にした河の流れのように鼠は無力であり、孤独であった。何処かで悪い風が吹き始め、それまで鼠をすっぽりと取り囲んでいた親密な空気を地球の裏側にまで吹きとばしてしまったようにも感じられる。 ひとつの季節がドアを開けて去り、もうひとつの季節がもうひとつのドアからやってくる。人は慌ててドアを開け、おい、ちょっと待ってくれ、ひとつだけ言い忘れたことがあ......
単語の意味
草地(くさち・そうち)
鼠(ねずみ)
蠅・蝿(はえ)
草地・・・草が生えている土地。
鼠・・・1.ネズミ科の哺乳動物の総称。人家の付近などに住む、敏捷な小動物。繁殖力が高く、食害や伝染病の原因となるため嫌われている。
2.鼠色(ねずみいろ)の略。
3.比喩として、こそこそと悪事を働く者、ひそかに害をなす者のたとえ。
2.鼠色(ねずみいろ)の略。
3.比喩として、こそこそと悪事を働く者、ひそかに害をなす者のたとえ。
蠅・蝿・・・ハエ目ハエ亜目ハエ下目に属する昆虫の総称。羽は二枚で触角は太くて短い。食べ物などにたかり、伝染病を媒介する。長い口先を使って液体などを舐める。幼虫はいわゆる「うじ」。不快なもの、五月蝿(うるさ)いものの代名詞にも使われる。
ここに意味を表示
時間の経過の表現・描写・類語(時間・スピードのカテゴリ)の一覧 ランダム5
時はどんどん過ぎ去っていく。過去が増えて未来が少なくなっていく。可能性が減って、悔恨が増えていく。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(下) amazon
このカテゴリを全部見る
孤独・一人ぼっちの表現・描写・類語(寂しい・喪失感のカテゴリ)の一覧 ランダム5
このカテゴリを全部見る
時間・スピードの比喩表現の例文 一覧 ランダム5
このカテゴリを全部見る
寂しい・喪失感の比喩表現の例文 一覧 ランダム5
このカテゴリを全部見る
「時間・スピード」カテゴリからランダム5
「人間は時間を直線として捉える。長いまっすぐな棒に刻み目をつけるみたいにね。こっちが前の未来で、こっちが後ろの過去で、今はこのポイントにいる、みたいに。《…略…》でも実際には時間は直線じゃない。どんなかっこうもしていない。それはあらゆる意味においてかたちを持たないものだ。でも僕らはかたちのないものを頭に思い浮かべられないから、便宜的にそれを直線として認識する。《…略…》つまり時間を永遠に続く一直線として捉え、そのような基本的認識のもとに行動をしてきた。そしてこれまでのところ、そうすることにとくに不都合や矛盾は見いだせなかった。だから経験則としてそれは正しいはずだ」
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
仕事が尻上 りに、目盛りをあげて行った。
小林多喜二 / 蟹工船
「寂しい・喪失感」カテゴリからランダム5
邪慳(じゃけん)な風を浴びたような淋しい孤独の川に流される
林 芙美子 / 晩菊・水仙・白鷺 amazon
一人でいると張合いがない
林芙美子 / 新版 放浪記
崖からつきおとされたように寂しくなる
島尾 敏雄 / 死の棘 amazon
同じカテゴリの表現一覧
時間・スピード の表現の一覧
寂しい・喪失感 の表現の一覧
感覚表現 大カテゴリ