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艫綱ともづなを投げると、それがすぐ幾十人もの男女の手で引っぱられる。船はしきりと上下するへさきに波のしぶきを食いながら、どんどん砂浜に近寄って、やがて疲れ切った魚のように黒く横たわって動かなくなる。
有島武郎 / 生まれいずる悩み ページ位置:65% 作品を確認(青空文庫)
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......海産物会社の印袢天しるしばんてんを着たり、犬の皮か何かを裏につけた外套がいとうを深々と羽織ったりした男たちが、右往左往に走りまわるそのあたりを目がけて、君の兄上が手慣れたさばきさっ艫綱ともづなを投げると、それがすぐ幾十人もの男女の手で引っぱられる。船はしきりと上下するへさきに波のしぶきを食いながら、どんどん砂浜に近寄って、やがて疲れ切った魚のように黒く横たわって動かなくなる。  漁夫たちはかじや帆の始末を簡単にしてしまうと、ふなべりを伝わって陸におどり上がる。海産物製造会社の人夫たちは、漁夫たちと入れ替わって、船の中にましらのように飛び込ん......
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