朝凪が波を消し海は太古のような静かな威厳に満ちている。

くたびれたように海は黙り、

晴れて表面は、白っぽく粉が吹いたように凪いでいる紺青の海

さざ波一つないほど静かな海

フ糊でも溶かしたようにトロッとしている海

真っ白に泡立ち騒いでいる滝壺から跳ね出されたように、魚が身を躍らせて滝の上に上る

街のむこうに海が見えた。海の色は非常に碧く、遠く、眼にしみるようだった。

陸地に近づくと波はなお怒る。鬣（たてがみ）を風になびかして暴（あ）れる野馬のように、波頭は波の穂になり、波の穂は飛沫（ひまつ）になり、飛沫はしぶきになり、しぶきは霧になり、霧はまたまっ白い波になって、息もつかせずあとからあとからと山すそに襲いかかって行く。山すその岩壁に打ちつけた波は、煮えくりかえった熱湯をぶちつけたように、湯げのような白沫（しらあわ）を五丈も六丈も高く飛ばして、反（そ）りを打ちながら海の中にどっとくずれ込む。

くたびれたように海は黙り、

道を堰かれた波が海坊主の頭みたいに円くもりあがってはさっと砕けてしぶきを飛ばす。