一面茶の木が鶯餅（うぐいすもち）を並べたように萌黄（もえぎ）の新芽で装われ、大気の中にまでほのぼのとした匂いを漂わしていた。

京都も、もう五月である。東山の新緑が花よりも美しく、赤味の差した 楠 の若葉がもくりもくり 八坂 の塔や清水の塔の後ろに浮き上って眺められる

鯉のぼりがバサバサと翻ってはグダリとなる

天心に近くぽつりと一つ白くわき出た雲の色にも形にもそれと知られるようなたけなわな春が、ところどころの別荘の建て物のほかには見渡すかぎり古く寂（さ）びれた鎌倉（かまくら）の谷々（やとやと）にまであふれていた。重い砂土の白ばんだ道の上には落ち椿（つばき）が一重（ひとえ）桜の花とまじって無残に落ち散っていた。桜のこずえには紅味（あかみ）を持った若葉がきらきらと日に輝いて、浅い影を地に落とした。名もない雑木（ぞうき）までが美しかった。

（喫茶店内）季節よりやや早目の花が、同じく季節よりやや早目の流行服の男女と色彩を調え合って、ここもすでに春だった。

（冬のウグイス）食欲に肥えふとって、なにか堅いチョッキでも着たような恰好をしている。

小学生の遊戯のようにはしゃいで踊る

晩春らしく、埃っぽい風の吹く午後

昼のうちむれていたアスファルトから生温かい風が吹いている或る晩

春の気配が夜気に垂れ込める