こんなにふしぎな蝶を見たことはなかった。 弓弦 のように引きしぼった大きな羽も、ゆたかに柔らかく 膨らんだその腹部も全身、銀色なのである。ただ二本の触覚だけが絹糸のように白かった。それはなぜか、ぼくは若い 踊子 を──頭に白い羽毛をつけ、銀粉を全身にぬって片脚をかるく上げて、今、空中に飛び上ろうとする美しい踊子を想わせた。
遠藤 周作「海と毒薬 (角川文庫)」に収録 ページ位置:64% 作品を確認(amazon)
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蝶々(ちょうちょ)
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前後の文章を含んだ引用
......れはね、わしが一年前に芦屋川の上流でつかまえたものだがね」彼は得意そうに眼をしばたたきながら一同を見わたすと、硝子箱を瘦せた両手で持ち上げた。 ぼくはそれまで、こんなにふしぎな蝶を見たことはなかった。弓弦のように引きしぼった大きな羽も、ゆたかに柔らかく膨らんだその腹部も全身、銀色なのである。ただ二本の触覚だけが絹糸のように白かった。それはなぜか、ぼくは若い踊子を──頭に白い羽毛をつけ、銀粉を全身にぬって片脚をかるく上げて、今、空中に飛び上ろうとする美しい踊子を想わせた。「変種だろうがね。変種にしても珍しい。京大の山口博士もゆずれと言うが、わしはゆずらんでおります」 そう言うとおこぜはいかにも惜しそうにその硝子箱の表面を幾度も手......
単語の意味
蝶(ちょう)
蝶・・・1.鱗翅目(りんしもく[=ガやチョウなど])の昆虫でガ以外のものを総称。四枚の大きな羽を羽ばたかせひらひらと昼間に飛ぶ。止まった時の羽を直立して閉じる、口先がらせん状になっているなどガと区別する。ただし、生物学的には明確な違いはない。主に昼間活動する。ひらひらと飛ぶ様子は死者の魂に結び付けられることもある。古名で「かわひらこ」という。
2.紋所の名。1の蝶をかたどったもの。
2.紋所の名。1の蝶をかたどったもの。
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蝶々(ちょうちょ)の表現・描写・類語(昆虫・虫のカテゴリ)の一覧 ランダム5
白い蝶のむれは白い花畑のように数を増して来た。
川端 康成 / 眠れる美女 amazon
花にたわむれている蝶は粉雪のように軽い
白洲 正子 / 能の物語 amazon
(温室の中でたくさんの蝶が、)初めも終わりもない意識の流れを区切る束の間の句読点のように、あちこちに見え隠れしていた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
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蛻(ぬけがら)の背中のひび割れは、じっと見ていると、ヴァイオリンのサウンドホールみたいな感じがしました。そして、蛻全体が、楽器みたいに鳴り響いているように見えたので、
平野啓一郎「ある男」に収録 amazon
先ほどの植え込みにいたてんとう虫は、ひょいと空に飛んだ。小さなその黒い斑点の分だけ、その場の悲しみが、もちろんそれは本当に微量ではあるのだが、すっと軽くなる。
伊坂 幸太郎 / マリアビートル amazon
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