団扇（うちわ）太鼓の音がどんぶくどんぶくと単調に聞こえる

初めは低く暗い余韻のない――お寺の森の暗（やみ）に啼（な）く梟（ふくろう）の声に似た音色が出た。喜びも悲しみもない……只淋しく低く……ポ……ポ……と。

鼓の音は一度絶えて又起った。その静かな美しい音をきいているうちに私の胸が次第に高く波打って来た。 　陰気に……陰気に……淋しく、……淋しく……極度まで打ち込まれて行った鼓の音（ね）がいつとなく陽気な嬉し気な響を帯びて来たからである。それは地獄の底深く一切を怨んで沈んで行った魂が、有り難いみ仏の手で成仏して、次第次第にこの世に浮かみ上って来るような感じであった。 　みるみる鼓の音に明る味がついて来てやがて全く普通の鼓の音（ね）になった。しかも日本晴れに晴れ渡った青空のように澄み切った音にかわってしまった。

大地を震わす和太鼓の律動

どんどんどんどん太鼓を叩く

ドォーン、ドォーン、ドォーンという轟音がまるで艦砲射撃みたいに続き

宗右衛門町の、しっとりとしたにぎわい

陽気な管絃楽の音が、おさえがたい幸福の吐息のように、休みなく溢れて来るのであった。

縁の下で蚯蚓（みみず）でも鳴いているような心もち

ぴゅーっと笛を吹くような音を立てる北風