季節と季節を繋ぐ糸は断ち切れても、なお一筋二筋、かすかに秋を繋ぎ止めているとでもいうような鳴き声で蟋蟀（こおろぎ）が聞える。

（たくさんなカジカガエルが鳴いて求愛する）一匹の雄（おす）がいた。そして彼もやはりその合唱の波のなかに漂いながら、ある間（ま）をおいては彼の喉（のど）を震わせていたのである。私は彼の相手がどこにいるのだろうかと捜して見た。流れを距（へだ）てて一尺ばかり離れた石の蔭（かげ）におとなしく控えている一匹がいる。どうもそれらしい。しばらく見ているうちに私はそれが雄の鳴くたびに「ゲ・ゲ」と満足気な声で受け答えをするのを発見した。そのうちに雄の声はだんだん冴えて来た。ひたむきに鳴くのが私の胸へも応（こた）えるほどになって来た。しばらくすると彼はまた突然に合唱のリズムを紊（みだ）しはじめた。鳴く間がたんだん迫って来たのである。もちろん雌は「ゲ・ゲ」とうなずいている。しかしこれは声の振わないせいか雄の熱情的なのに比べて少し呑気（のんき）に見える。

激しい河の流れや虫の音が、地の底からわき立つようだ。

川の音をかき消すほど、虫は大合唱だ。

虫の鳴き声とせせらぎの音が地鳴りのように高まっている。

一匹の 蠅 が、格子から飛びこんできて、ねむけを誘う羽音をたてながら司祭の周りを廻りはじめる。

ぶ厚い四翅をばさばさと打ちふるたびに、綿の実のような鱗粉が片々と乱れ

（馬のあとを）太った 銀 蠅 が、ぎらつきながらそのあとを追っていった。

枯葉のように散ってゆく蛾もあった。

誘導棒の赤い光に羽虫が集まっていて、それを振り払おうと棒をいたずらに振ったら蛾に当たり、殴られた蛾はアンバランスな低空飛行をしばらく続けた後、砂利の上で動かなくなった。もうそういう季節になってきている。