（アイデアを出す）「耳クソも、何にもない、綺麗だと思っていても、一生懸命耳をかき出すと、白くて大きいものがポロッと出てきたりするじゃないか。思い出なんてそんなもんで、やたらひっかけばひっかくほどどんどんとれていくもんさ」

ちえ子は突然、子供を産みたいと思った。《…略…》まるで胸の奥から炎の吹き上がるように、そう思った。

田沢医師は腕組みすると、眉間に皺を寄せて考え込んでいたが、ふいに腕組みを解くと、 「ちょっとお待ちください」 　と言い、立ち上がって横の調剤室へ入った。

頭の片隅が、あり得ないはずの結論の尾をつかむ。

考えは、何度も同じ道を低徊（ていかい）した揚句（あげく）に、やっとこの局所へ逢着（ほうちゃく）した。

思い浮かぶ

実の父親が息子の命まで奪うとは考えられん」 「確かにそうだな。プロ野球の選手の練習を子連れで見に行くほど、須藤は息子を可愛がっていたんだからな」 　白石の呟きを耳にし、小此木は踏み出しかけた足を止めた。 　プロ野球の選手── 　どこかで見た覚えがある。

ポンと筒が抜けたように工夫がつく

とりとめのない憶測に神経を疲れさせる

ユキはしばらく黙っていた。暗示的な沈黙だった。僕はそれ以上何も言わずにその暗示の行く先を見守っていた。年をとると暗示の暗示性というものが少しは理解できるようになる。そしてその暗示性が現実の形をとるまでじっと待つことを覚えるようになる。ペンキが乾くのを待つのと同じように。《…略…》十分ほどあとで、ユキは僕の肩に顔をつけて泣き始めた。