人通りが減っていた。もとからそれほど通行人のいる場所でもなかったが、それにしても少ない。

（橋を渡る）人の流れは途切れがなく、あたかも一本の川みたいで、ふたつの川が、ちょうど十字形に交差しているように見えていた。道頓堀川という大きな泥溝と、 夥しい人間の群れによって作りだされている濁流との交わりだった。

店飾りを群集の人影の明滅の間からぼんやり眺めて

（銀座の人波）むらな雨雲のように押し合って塊ったり、意味なく途切れたりしつつ、大体の上では、町並の側と車道の側との二流れに分れて、さらさらと擦れ違って行く。すると、それがいかにも歓（よろこ）びに溢（あふ）れ、青春を持て剰（あま）している食後の夜の町のプロムナードの人種になって、特に銀座以外には見られぬ人種になって、上品で綺羅（きら）びやかな長蛇のような帯陣をなして流れて行く。

魚の群のように散歩着の人々が流れて

草原は砂丘のようにゆるゆかに起伏している

大根畑の土の匂いが香ばしく匂う。

白煙のごとく悠々と連なった山々

左右に青木ヶ原の爽快な地平線の眺めが、数十里の彼方まで拡がった。

山の全（まった）き姿を淡い夕映の空がくっきりと濃深縹色（ふかはなだいろ）に描き出した