月は最後に見たときから、地球の自転にあわせて位置を相応に変えているものの、まだ視界の中に留まっている。

澱みに広がる水の輪のように、緩慢で怠惰な時間が過ぎる

昨夜の女がなんであるにせよ現実はスケジュール通りの時刻を刻んでいて、敏郎はその流れの中に身を委ねなければならなかった。

時間の過ぎていくのを骨身にしみて 愛しく感じる。

世界のどこかに開いた傷口から今このときにも時間が血のように流れ出ていく。なにもかもいつかは出血多量に 蒼 ざめて死ぬのだ。

この夏は集中して独学で料理を学んだ。 　あの感じ、頭の中で細胞がふえるような感じはちょっと忘れがたい。

時間はそこから始まり、流れ、たゆたい、野呂がわたしから去って行った後もなお、その流れは音もなく続いて今に至っている。

妄想が大海原の如く果てしなく広がります。

「人間は時間を直線として捉える。長いまっすぐな棒に刻み目をつけるみたいにね。こっちが前の未来で、こっちが後ろの過去で、今はこのポイントにいる、みたいに。《…略…》でも実際には時間は直線じゃない。どんなかっこうもしていない。それはあらゆる意味においてかたちを持たないものだ。でも僕らはかたちのないものを頭に思い浮かべられないから、便宜的にそれを直線として認識する。《…略…》つまり時間を永遠に続く一直線として捉え、そのような基本的認識のもとに行動をしてきた。そしてこれまでのところ、そうすることにとくに不都合や矛盾は見いだせなかった。だから経験則としてそれは正しいはずだ」

牛のようにゆっくりしたスピードで