思考を断ち切る

胸へこみあげてくる毒々しい妄念を否定するように、烈しく首を振っては酒を呷（あお）る

首を振って頭の中からイメージを追い払う

余計なことは考えないようにしようと牛河は思った。皮膚を厚くし、心の殻を固くし、日々をひとつまたひとつと規則正しく重ねていくのだ。俺はただの機械に過ぎない。有能で我慢強く無感覚な機械だ。一方の口から新しい時間を吸い込み、それを古い時間に換えてもう一方の口から吐き出す。存在すること、それ自体がその機械の存在事由なのだ。もう一度そのような混じりけのない純粋なサイクル――いつか終わりを迎えるであろう永久運動――に復帰しなくてはならない。彼は意志を堅くし、心の蓋を閉ざすことで、ふかえりのイメージを脳裏から追い払おうとした。

胸に湧いた疑惑を激しく頭を振って打ち消す

ひとつの部屋から別の部屋に移っていくように頭を切り替える

雑念を飲み込むように紙コップのコーヒーを一口飲み

心の視座はすぐに切り替わり、今度は捜査資料として残されていた尾畑小枝子の顔がありありと浮かんだ。

こういうときの私の頭の切り替えは、天才的に速い。新たな認識の空間がにゅっと割り込んできてとけこんでしまう。継ぎ目や矛盾はない。

ひとつの靴から別の靴に履き替えるような感覚

（闘争本能）日本人の表皮を剥げばサムライが現れる

事件を巡るいくつかの不審点は、この推理によって氷解するように見える。

考えをふるい落とそうとするかのごとく激しく頭を左右に振る

はい、と返事をして、真由が立ち上がる。椅子の足が床に擦れる音で、愛子は我に返った。

脳の中で図面を引いて作った世界に暮らす