エンジンを入れてボートを湖面に滑（すべ）り出さすと、鶺鴒（せきれい）の尾のように船あとを長くひき、ピストンの鼓動（こどう）は気のひけるほど山水の平静を破った。

赤い太鼓腹を巾（はば）広く浮かばしている汽船や、積荷最中らしく海の中から片袖（かたそで）をグイと引張られてでもいるように、思いッ切り片側に傾いているのや、黄色い、太い煙突、大きな鈴のようなヴイ、南京虫（ナンキンむし）のように船と船の間をせわしく縫っているランチ、寒々とざわめいている油煙やパン屑（くず）や腐った果物の浮いている何か特別な織物のような波……。風の工合で煙が波とすれずれになびいて、ムッとする石炭の匂いを送った。ウインチのガラガラという音が、時々波を伝って直接（じか）に響いてきた。

舟の家は、真っ暗な川の 縁 にひたひたと打ちつけられている

油のような粘りを持った大きな波浪がゆったりと襲ってきては、船を山から谷へ谷から山へと運ぶ

明るく点（とも）して泊る艦隊の灯が水平線に横たわる星河のように望まれた。

明るく点（とも）して泊る艦隊の灯が水平線に横たわる星河のように望まれた。

新宿に向う道路はひどく渋滞していた。あるポイントを越えると、車は錨を下ろしたみたいに殆んど動かなくなってしまった。ときどき波に揺られて車が何センチか移動するといった感じだ。

ワゴンは滑るように夜の道路を駆けた。

赤いスポーツカーが追い抜いていった

乗り心地の良さそうな自転車