ふとりすぎて、フトンのように寝ている小母さん。

彼女は自分の大量の縮れた毛を枕にして赤ん坊のように眠りこけている。

（寝落ちして）朝になったらママは疲れ果てたミイラみたいになって寝ていた。

口をあいて太平の空気を夢中に吐呑（とどん）している。

（赤ん坊は）指をしゃぶりながら綿のように寝入っている。

「ねむるのが、何よりのたのしみで生きている」

遠くの戦車の轟きに似たような、いびきの音

（夜中に目が覚める）こういう状態で夜中に目が覚めた。それはまさに「状態」で、気づくともうそこにいるといったような感じなので、ひとことで表すことはできない。 　ただ、何もなくなっているのだ。自分が、ただ宙に浮いている。理屈ではわかっているし、そういうつもりにはなれる。今がいつで、自分は眠る前何をしていたか。 　でもどうにも遠い。感情も感覚もない。ただ空虚な空間に身を休めているのだけが実感できる。自分が三歳なのか、三十歳なのか、本当にわからない。今がいつで、寝る前どういう一日を送ったか。すべてが夢で、君はこれからうまれる赤ん坊なんだよ、と言われたらああそうか、そうなんだな、と思える。ただ静かで、むき出しで、白紙だ。

（眠りが浅い）ぼくはその脈絡のない眠りの中で──あるいは不確かな覚醒の中で──すみれのことを考えた。

ふと、眼をあけると、うつつな、渋い網膜（もうまく）に、大きな人影が映った。