一人のこうした当のない旅でのトンネルは、なぜかしんみりとした気持ちになる。

トンネルに入り、振動音が変わった。周囲が急に暗くなる。水の中に潜ったかのような圧迫感が車内を覆う。

洞窟内のしんと沈んだ湿気のある空気

洞窟の入り口が墨を塗ったように漆黒である

蟻（あり）の塔のように材木を組みわたした暗い坑道口から、泡（あわ）のように湧（わ）いて出る坑夫達

緑の木々を切るように自動車が疾走する

左右の景色は瞬く間に流れていく

寝静まったかのような街中に、軽快なエンジン音が鳴り響く

（山道を車が走る）背の低い雑木の繁茂が、時折フロントガラスをくすぐり、車体が揺れる度に、泥水の翼が、タイヤの下で驚いたように羽ばたいた。尻に伝わってくる振動には、冒険的なものがあった。

終電車はもうとうに終わっている。駅舎もホームも照明が落とされて暗い。駅周辺の商店も、住宅も、明かりの漏れている建物は少なく、林や畑はもとより夜の闇そのものみたいに真っ暗、というか真っ黒に映る。 　そのなかをまばらな街灯が繫いで示す道は細く頼りなく曲がりくねり、今は寝静まっているこの街の人々の住まいと住まいを結びながら闇に突っ込んだように途絶えたり、明るいオレンジ色の街灯とともに北側を太く力強く走る国道に届いたりした。 　その国道こそ時折トラックなどが走ってきて去っていき、動きの乏しいこの町の夜景が、時間の止まった静止画ではないことを気づかせてもくれるのだったが、南側の畑が広がる間の細い道路を移動する自動車の光があると、むしろ時間と空間を超え来た物体を夜空に見ているような錯覚に陥った。

田舎の空気のうまさ、野菜のうまさについてはいうをまたない。

水と空との閉じ目

（日に日に大きくなる開発中のニュータウンに暮らす少女。成長期による膝の痛みをかかえる。できたばかりの白いレンガが敷き詰められた道と通って）「私たち、骨の中で暮らしてるみたい」 　肘と膝が、また痛んだ。私たちの手足の中にあるような、伸びる骨。まるでその骨の中に紛れ込んだみたいだ。白い世界は少しずつ広がって、完成へと近づいて行く。

（高台）足元ばかり見ていないと落っこちてしまう、まるで絶壁のようにがくん、と見降ろす景色はジェットコースターを思わせた。

ただ風が吹き渡り、柔らかな緑の草がそれに合わせて音もなく揺れている

三車線の第三京浜が一晩中通行止になるほどの大事故だった。

クラッチをつないで、アクセルに力を入れる。限界域までアクセルを踏み込んでいた。次々にシフトを上げていく。

造船所へ向かう車で渋滞しており、どの車にも欠伸をかみ殺したような男たちが乗っている。

パトカーのサイレンの音が、四方八方から湧き上がって、波のように押し寄せる

（一人乗りの平底舟は、）笹の葉のような軽快なかたち