その部屋の前に立ったとき、硝子戸の内側にいつも映っている薄桃色のカーテンは無かった。磨り硝子は暗く、ひやりと冷たい感じで内部の空虚を伝えていた。
松本 清張 / 真贋の森「松本清張ジャンル別作品集(3) 美術ミステリ (双葉文庫)」に収録 ページ位置:56% 作品を確認(amazon)
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留守
引っ越し
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前後の文章を含んだ引用
......胸に湧いていた。 汽車が朝ついたので、俺が民子のアパートに行ったのは午まえであった。当然に、彼女は睡眠を貪っている時刻であった。が、コンクリートの土間を踏んで、その部屋の前に立ったとき、硝子戸の内側にいつも映っている薄桃色のカーテンは無かった。磨り硝子は暗く、ひやりと冷たい感じで内部の空虚を伝えていた。 表の入口に廻って、管理人の窓を叩くと、五十くらいの女が顔を出した。「二日前、何処かに越しましたよ」 と民子のことを教えた。「お店も変るという話だったし、何処に......
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留守の表現・描写・類語(状態・状況のカテゴリ)の一覧 ランダム5
(居留守)物音はしないが、居るのは気配で判る。
向田邦子 / だらだら坂「思い出トランプ(新潮文庫)」に収録 amazon
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引っ越しの表現・描写・類語(イベントのカテゴリ)の一覧 ランダム5
ただの箱と化していく部屋を見ていると、それまで呼吸していた部屋が死んでいくようにも思えた。
又吉直樹「劇場(新潮文庫)」に収録 amazon
(転々とする)「貴女ぐらい住所の変る人はないわね、私の住所録を汚して行くのはあんた一人よ。」
林芙美子 / 新版 放浪記
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「状態・状況」カテゴリからランダム5
手紙を出してみると、移転先不明の附箋 が附いて返って来た。
岡本かの子 / 雛妓
「イベント」カテゴリからランダム5
夜の縁日というものは、別に〔歳時記〕できめられたわけではないけれども、やはり、初夏から晩夏にかけての感じがする。
池波 正太郎「食卓の情景 (新潮文庫)」に収録 amazon
(遺体安置室)父親の遺体は、療養所の目立たない一画にある、目立たない小部屋に安置されていた。《…略…》父親は移動式のベッドの上に仰向けに寝かされ、白い布をかけられていた。窓のない真四角な部屋で、白い壁を天井の蛍光灯がいっそう白く照らしていた。腰までの高さのキャビネットがあり、その上に置かれたガラスの花瓶には、白い菊の花が三本さしてあった。花はおそらくその日の朝に活けられたのだろう。壁には丸形の時計がかかっていた埃をかぶった古い時計だが、指している時刻は正確だった。それは何かを証言する役目を担っているのかも知れない。そのほかには家具もなく装飾もない。たくさんの老いた死者たちが同じようにこの簡素な部屋を通過していったのだろう。無言のままここに入ってきて、無言のままここを出て行く。その部屋には実務的ではあるが、それなりに厳粛な空気が大事な申し送り事項のように漂っていた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
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