赤みがさす

爛れたように赤い

目が染まるほど鮮やかな赤

ストーブに赤く照らされたみたいに

頭痛がひどくなりそうな目をえぐるような赤

明るい夕空の紺青を仰ぐ

空がバラ色に暮れていく

スモッグの 靄 の向こうの、オレンジ色のサインマーカーで横線を一本引いたような貧弱な夕焼け

海が広がって行って終わろうとするあたりから、空が広がって来、分かれがたいもののように、真珠にもまごうバラ色に輝いていた。

空が淡い朱色から熟したトマト色に、やがて薄い紫色に変わる

埃と車の排気ガスで覆われたみたいに白茶けて

黒味がかって見えるほどの深緑

虹の色を帯びたガラス玉

日の出が湖面を赤錆色にする

金色のあぶらの光るスープみたいに

北の空はまだ晴れ間があるけれども南は既に夕暮の雲が重なりはじめている。

みんなうるさいほど元気に朝の支度をしていて、父はもうとっくに出かけ、母はたち働いて、家の中はすべてが紛れてしまうくらい生命にあふれている。

夜の街の空気が、未だに海のうねりのように肌に蘇って消えなかった。

じょじょにその夕焼けが去っていくとき、何ともわかれがたい気持ちとすがすがしい感謝の気持ちが混じって、切なくなった。 　これからの人生に、たとえ今日のような日はあっても、この空の具合、雲の形、空気の色、風の温度、二度とはないのだ。 　同じ国に生まれた人々が、夕方の町をのんびりと歩いていく。夕食の明かりがともる窓が、夕闇の透明なスクリーンに浮かびあがる。 　そこにあるすべてが、手を伸ばせば水のようにすくえそうだった。つやめいた 滴 がぽたりぽたりとしたたり落ち、コンクリートにはねかえるとき、去ってゆく昼間の陽の 匂いと、濃い夜の匂いの両方をたたえていそうだった。

落ちかかる日輪は爛（ただ）れたような日中のごみを風に吹（ふ）き払（はら）われ、ただ肉桃色（にくももいろ）の盆（ぼん）のように空虚に丸い。