海面が鏡のように静か

晴れて表面は、白っぽく粉が吹いたように凪いでいる紺青の海

フ糊でも溶かしたようにトロッとしている海

風は運河のはるか上を走り過ぎるのか、道頓堀川の表面には、とろんとした黒い光が浮かんでいるだけで、少しも波立とうとしない。

鏡のように凪（な）いだ夕暮前の湖面

「淵には九つの性質がある。静水をじっと湛（たた）えているのも淵だ。流れて来た水のしばらく淀（よど）むところも淵だ。底から湧（わ）いた水が豊かに溜（たま）り、そしてまた流れ出るところも淵だ。滴（した）たって落つる水を受け止めているのも淵だ――」 　父親は大体こんなふうに淵が水を受け入れる諸条件を九つの範疇（はんちゅう）にまとめて、 「これを九淵の説と云って、水はいろいろの変化で向うが、それを受け容れる淵はたった一つなのだ。この淵の無心な気持ちになっていれば世間がどう変りこっちにどう仕向けようと、余悠綽々（よゆうしゃくしゃく）なのだ。

揺れ動く波の山

河口の鵜（う）の喉（のど）の膨らみのようになっている岸

どんなときも生命の波音は囁いている

藍を流したような濃い色の潮