（小学校一年生）真新しい学帽とランドセルが歩いているような姿が、母親に手を引かれている

女生徒たちは不恰好なブルーマースを家鴨（あひる）のように穿（は）いて

花のような修学旅行の女学生の一団

学生服の上に当時としても大時代な黒いマントを着ており、曇りガラスの軒灯が角帽の 庇ひさし の影を落として、顔は見えなかった。まるで夕まぐれの 闇 から、真黒なかたまりがぬっと立ち現れたようだった。

まだ骨格もおぼつかない中学生

（友達がいない）授業の合間の十分休憩が一番の苦痛で、喧騒の教室の中、肺の半分くらいしか空気を吸い込めない、肩から固まっていくような圧迫感。自分の席に座ったまま、クラスの子たちがはしゃいで話をしている横で、まるで興味がないのに、次の授業の教科書を開いてみたりして。この世で一番長い十分間の休憩。自分の席から動けずに、無表情のままちょっとずつ死んでいく自分を、とてもリアルに想像できる。

ラッシュ時の駅のホームのように学生がひしめくキャンパス

（プール後の授業）「よくさぁ、夏、プールの後ってくたびれて授業中熟睡しちゃうことがあるじゃない。ほら、あの感じ。体がまだ半分泳いでるようなね、心地良くて、陽がたくさん当たって。それで先生の声がとおーく、子守歌になっちゃって、ぐうぐう寝ちゃうのよね。それで、ぱっと目が覚めると、五分くらいしか寝てないのに、なぜかしらすごくいっぱい寝たような不思議な気分にならなかった？」 「なった、なった。やっぱり熟睡だからだろうな。」 「まわりはなにも、変わってないの。先生は相変わらず黒板になにか書いてしゃべってるし、みんなも変化がなくって、体がほんのりあったかくって、窓の外は晴れてて、なにもさっきと変わってないのに、私だけ急にそこに降ってわいちゃったみたいな変な感じで、なんだかとても誰かとなにかしゃべりたいような不安な気がして、ねえって振り向くと智明くん、必ず！　寝てるの。おかしかったあ。ぼうぜんと智明くんの眠る背中を見て、笑いながらまた前向いて、……懐かしいなあ。」

（放課後、教室に聞こえる音）開いた窓から飛び込んでくる子供たちの叫び声。サッカーボールが蹴られる音。野球のバットがソフトボールを打つ音。何かを訴える下級生の女の子の甲高い叫び声。リコーダーがたどたどしく『庭の千草』を合奏練習している。

ひとりでいる校舎は、真昼でも夜のプールサイドに似ている。暗く光る廊下、水のようにあり余っている酸素の 匂い。

新しい傾向のフランス料理を現地で学んできた若者たちが、つぎつぎに自分の店をひらき、本格の味を提供するようになった

サーチライトに照らされた白い建物が見えてきた。山の陰に隠された秘密の要塞のように空港は活気に満ちていて、それは今まで走ってきた人気のない雪道とは対照的だった。

何気なく空を見た。街のあちらこちらでネオンが灯っている。それは、いつもと変わらない。渋谷の風景だった。

正月が二度来たような賑わい

（老人ホームは）近代的な作りの白いビルで、一見するとマンションのように見えた。

公園の中には、樹とおんなじように埃をかぶった人間が、あっちにもこっちにもうろうろしている。

（社長秘書の）鉄の 鎧 のようなスーツ

ありとあらゆる特定のジャンルに 素人 からプロまでいろんな人が心を傾けていて、ありとあらゆる奥深さがあり、 高尚 な気持ちからすごい下品さまですべてがふくまれていて、その気になれば人間は、それにかかりっきりになって人生のすべてを使うことができる……ということだ。 　それが「道」というものなんだろう。

（殺し屋への依頼方法）ウエイターがいるカウンターの周りにはテーブルがいくつかある。とにかく一番奥の席へつけ。そこには「予約中」の札が立っているが無視していい。ウェイターがメニューを持ってくるが内容を確認する必要ない。そのまま「タナトス」というカクテルをオーダーしろ。《…略…》それはメニューには載っていないカクテルだ。《…略…》これが依頼の合図となる。

ルームサービスを取った。 　サンドイッチとジュースと、サラダと卵料理とベーコンとコーヒーの、私がこの世で一番好きなタイプの朝ごはんだった。