僕が大学の四年間で経験してきた、下らない出来事や些細な場面があっという間に、まるで、敷かれた布の下から水分が一斉に滲み出るように、湧いた。

その頃の性欲、後ろめたさ、達成感、重荷が、食事をしはじめると、ゆっくりよみがえるのが分った。

ここに至る十七年間の出来事が胸に去来した。多くの顔が瞼に重なり合う。

あの頃の苦しい記憶がちょっと気分を 掠めて通った

白いペンキのにおいがした。鼻の奥がほんのり痛むようなそのにおいは、Ｍ病院と強く結びついて、大人になってもなかなか消えなかった。ペンキのにおいをかぐと必ず、Ｍ病院を思い出した。

記憶がギッシリと頭の中に詰まっている

彫られて絶対に消えない記憶

理由も経緯も思い出せないし、歩きながら見た光景の断片と、歩きながら考えていたことのその内容も全部忘れてしまったが、輪郭というか抜け殻のようなものは残っている。

こうして車を飛ばした日のことや、この半年で会った人たちのことや、起こった出来事について断片的に思った。 　その断片は、記憶を無くした時の空間のようにこころもとない断片ではなく、やはり詩みたいに、美しいフレーズみたいにきら、きらと日本の緑と夏の海辺に舞うのだった。

（会えなくなった友との思い出に）シンイチの目には涙が盛り上がり、それは心のレンズのようにスタンとの思い出を拡大して彼自身に反芻させた。