店先にツヤツヤ光るイチゴが並ぶ季節

小鳥たちの合唱が色とりどりの花と競い合って、世は春

ちかちか輝く薄緑のレースで飾られる美しい春の森

南より北へ歩みを運ぶ春

街には女性の服にようやく春めいた色彩が目立ち始めた。灰色一色の冬のキャンパスの上に、原色の鮮やかな絵の具が一滴したたり落ちたという感じであった。

こいのぼりが青空に泳ぐ季節

しのびやかに軽くくすぐるように、一日ずつ近づいてくる春

春浅い陽射しが差し込む社長室

桜花を催す雨が二三日しとしと続く

とにかく、春の勢いはすごい。これまではモノクロにくすんでいた画面に、一瞬で色がつくみたいだ。どんな特撮技術を使っても、この鮮やかな景色の変化は表現できないだろう。 　変化は景色だけじゃなく、においにも音にも表れる。冬のあいだは硬く冷たく流れる川が、草木が芽吹きはじめるのとほぼ同時に、さらさらと優しい音に変わる。水は澄みわたって、甘い香りがする。金色に輝く川底の砂に、透明なメダカの群の影が映っているのを発見し、俺は思わず声を上げてしまった。 　なんかこう、春はすべてにメリハリがつくって感じだ。繁ばあちゃんの大群に包囲されてるのが冬だとしたら、百人の直紀さんがバイクに乗って、山を駆けめぐってるのが春だ。張りがあって騒々しい。