じめじめと湿った薄暗い家

煤けた傘を伏せたような家の中

（ナポレオン記念館）ナポレオンの館は 暗澹 たる闇に包まれ、四階の片隅にのみひっそりとあかりがともり続けていた。遠い歴史の灯のように。

氷室のように湿っぽく暗く冷たい家

人間は、自分が棲息する家の空気に対して、獣が巣の安全、或は近づいた危険を本能的に嗅ぎ分けると同じような直覚を持っている。伸子は部屋部屋の鎮まりかえった調子、何処からか流れ出て、廊下にさえ感じられる冷やかさに、用心を感じた。

古木のように年月を超えても変わらぬ佇まい

〈雑音堂〉は比較的新しいタイル張りマンションの一階にテナントとして入っていた。

照明のおかげで黄金色に輝くエッフェル塔

夜は疎らな街灯の下以外、道と畑の境もわからぬほどの暗さだが、本当にわからぬわけではなくて、目はすぐ闇に慣れる。アスファルトの闇と、草の繁る闇は違うし、遠く川の上の空を見ればそこにあるのは闇ではなく見慣れたいつもの夜空だとわかる。

真四角のサイコロを二つ重ねたような建物