這って進む

地面を虫のように少しずつ這って行った。

掌と膝小僧で身体を支え、足の裏側を床につけないように気をつけながら、犬のように四本足で進む

手をついて獣のように移動する

泳ぐように這う

ロンパースの裾からのぞくリエの足は、バターの塊のように滑らかで白かった。

命が宿ったばかりの、赤い、醜い肉塊

抱かれた赤ん坊は、世界の広さと冷ややかさに戸惑っているように見える。

水のように透き通った赤坊

猿のように赤い女の児

久遠は不思議な青年だった。青二才を代表するかのような暢気さと優雅さを備えていた。林檎を齧るような自然さで、他人に同情し、世話を焼き、青年らしく未来を嘆いたりする。

彼女の容姿にはもともと物語風なところがあった。物語に出てくる恋する乙女そのままの風情だった。

（エコー写真）その写真を見せられた時、凍りついた夜空に降る雨のようだと思った。《…略…》夜空は深く清らかな黒色で、じっと見続けているとめまいがしそうだった。雨ははかない霧のように空を漂っていた。そしてその霧の中に、ぽっかりそらまめ型の空洞が浮かんでいた。《…略…》そらまめ型の空洞に目を凝らした。夜を濡らす霧雨の音が聞こえてきそうだった。その空洞のくびれた隅にひっかかっているのが赤ん坊だった。それはもろい影の塊で、風がふくと夜の底へはらはら舞い落ちていきそうだった。

子供など 所詮、慰みものにすぎん。おのれの生きた証をそれにしか見いだせない男が、子を作り、後生大事に可愛がるのだ。

（赤んぼは）火にあぶったスルメのように、ふんぞり返ってしまって

夜目にも白くほこりを巻いて

足の裏が擦り切れるほど走り回る

野良犬のように転々と渡り歩く

むやみに足の向く方をあるき散らした。

路上を帰って行く足音を、武内は何かゼンマイのほどけつつある音として聞きいっていた。