ほんの茅葺（かやぶき）屋根の吹き曝（さら）しの温泉で、桜の花も散り込んで来たし、溪の眺めも眺められた

丸太造りの大きな浴槽に澄み切った温泉があふれ、暖かくなると、天井の梁に巻きついていた蛇が湯気に酔って浴槽へ落ちて来るほどの、当時の法師温泉は鄙びた湯治場で、

ラジウムの 含有量 で世界第二位というここの湯が気に入っていた。いかにも厚味のあるトロリとした 肌 ざわり、そして出てからいつまでもぽかぽか温まっている

湯はさらりとして熱かった。家でわかすお湯とは違い、温泉水の硬さがある。身体のこりがほぐれてきて、揉みしだかれたように、背中の筋肉が緩んでいつもよりのびのびと広がった。

清冽な温泉が、この石の間からぶくぶくと泡をたててふき出している。

銀座などとちがって、狭い山ノ手のカフェでは、孤独な客が他所（よそ）のテーブルを眺めたりしながら時を費すことはそう自由ではない。

青いネオン管に彩られた西麻布のショット・バー

（夕方、競技場の影）競技場を 挟んでちょうど真向かいにあたる観覧席の上段に、三本のポールが立っていて、それが邦彦と老人のいる場所まで長い影を落としていた。三本の影は、楕円形の競技場の中心を貫いて、邦彦の背後のまだずっと遠くへと伸びていた。どんな強風にも左右されない一直線の影というものが、邦彦には妙に不思議な現象に思われた。 　ポールが揺れないかぎり、影も決して揺れはしないのだと、邦彦は新しい物理的法則を発見したかのように、その三本の黒い線を見つめた。

ビストロといえば居酒屋ということになるが、フランス語のふくみでは、もっといろいろに解してよいらしい。日本でいうなら〔うまいもの屋〕だ。

心の中みたいに真っ白な病院