死ぬの表現・描写・類語(生と死のカテゴリ)の一覧 ランダム5
少年の時間は永遠に停止してしまった
翔田 寛「真犯人 (小学館文庫)」に収録 amazon
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善三郎は裃を帯のあたりまでするりと脱ぎ、上半身を裸にした。慣例に従って、念入りに両袖を膝の下へ敷き、後方へ倒れないようにした。身分のある立派な武士は、前向きに死ぬものとされていたからである。善三郎はしっかりした手つきで、目の前に置かれた短刀を慎重に取りあげ、さもいとおしげにこれを眺めた。それは、しばし最後の覚悟に思いを 馳せているかのように見えた。 次の瞬間、善三郎は短刀で左の腹下に深く突き刺し、ゆっくりと右へ引いた。さらに今度は刃先の向きをかえてやや上に切り上げた。このすさまじい苦痛をともなう動作の間、彼は顔の表情ひとつ動かさなかった。そして短刀を抜き、身体を少しばかり前方に傾け首を差し出したとき、初めて苦痛の表情が彼の顔をよぎった。が、声はまったく立てなかった。そのとき、咎人のかたわらに身を 屈め、事の次第を終始見守っていた介錯人が立ち上がり、一瞬、白刃が空を舞ったかと思うと、重たい鈍い響きとともに、どさっと倒れる音がして、首は胴体から切り離された。 堂内、水を打ったような静寂。目前のもはや動かない肉塊から血潮の吹き出る忌まわしい音だけが、静寂を破っていた。
新渡戸稲造 訳:岬龍一郎「いま、拠って立つべき“日本の精神” 武士道 (PHP文庫)」に収録 amazon
死病を宣告されると、これまで想を練っていた新しい方向がひどく鮮明に浮んできた。事実、その着想を得たときは昂奮して二、三日は夜も眠れなかった。その後もずっとその考えを追ってきたのだけれど今までぼんやりとしていたそれがここで明確になってきた。それも生きる期間を制限されて気持が急に真剣になったものか、神経的な感覚が尖鋭になったものかよく分らなかった
松本 清張 / 与えられた生「松本清張ジャンル別作品集(3) 美術ミステリ (双葉文庫)」に収録 amazon
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