背のびでもするように哄笑（こうしょう）した。

込み上げて来る子供の様な笑い声で、何時（いつ）までもおかしそうに笑っていた。

江口の笑いは体の中で尾を引いていた。

顔の筋肉がこわばるほどニコニコ笑う

「ハッハッ……」青年はそうだと云ってほがらかに哄笑（こうしょう）していた。

小説書きは、それぞれに自分の体質と性格に適した方法で発想をし、仕事をすすめて行くわけだが、なんといっても、一つ一つ、仕上げてゆく仕事が同じものではいけないことが苦しい。 　もっとも辛いのは五、六十枚の短篇小説であって、これは短い日数のうちに一つの主題を完結させねばならないから、まったく油断も隙もあったものではない。私などは五十枚のものだったら五日間、一日十枚を書くつもりで日数をとっておかぬと、安心ができない。連載小説の場合は、一つの長いストーリーを一年なり一年半なりかけて、準備をし、さらに、それと同じ月日をかけて書きすすめてゆくわけだから、当然、登場して来る諸人物の性格も発酵しているわけだ。 　そうした作業を、短篇ではわずかな日数と枚数で仕上げねばならぬ。まことに苦しいのだけれども、短篇小説を書くことからはなれてしまうと、私の場合は長篇を書くときの自信がもてない。 　短篇を書いて構成力を養っておかぬと、どうも安心ができないのだ。

なにかわけのありそうな笑い方

俺は観念し、ぱちんと両手を合わせて「すまん！」と頭を下げる。

すみれはかまわないというしるしに、唇をまっすぐにむすんで相手の目を見た。

そのくりかえし。ぐるぐるまわる、閉じられた輪。

強（し）いて同感を求めるような語気でもないから、私は何とも返事しようがない気持をただ微笑に現して頷（うなず）いてだけいた。

笑うことはあまりないが、いったん笑うと顔中が笑みになる。しかしそうなっても、とくに楽しそうには見えない。不吉な予言を準備しながらほくそ笑んでいる、年期を経た魔法使いとしか見えない。

恐怖は感じない。むしろ笑いが込み上げてくる。まるでくだらないブラックジョークだ。

あたしは美咲の笑顔に花を見る。花びらがはっきり分かれているものじゃなく、朝顔みたいに一枚に繫がっていて、ロート状になっている花。ふるっと揺れて、ねじった布が解けていくように、ゆっくり開花していく花だ。

ひょうきんな顔