日本語表現インフォ > 比喩表現の一覧 > 風景の比喩 > 空・中空の比喩表現
空・中空の比喩を使った文章の一覧(324件)
秋の夜更の夜気が水のように肌をひたした
円地文子 / 女坂 amazon
雨があがったばかりで、まるでニューヨークじゅうがまるごと蒸し焼きにされているような具合でした
村上春樹 / 回転木馬のデッド・ヒート(タクシーに乗った男) amazon
暗い古綿を浮かべたまま寒々と暮れて行く空
城山三郎 / 辛酸 amazon
十一月の曇った空は重く湿った羅紗のよう
永井荷風 / ふらんす物語 amazon
窓からさしこんでくる月の光は様々な事物の影を長くのばし、まるで薄めた墨でも塗ったようにほんのりと淡く壁を染めていた
村上 春樹 / ノルウェイの森 上 amazon
空は抜けるように青く、細くかすれた雲がまるでペンキのためし塗りでもしたみたいに天頂にすうっと白くこびりついていた
村上 春樹 / ノルウェイの森 上 amazon
天の怒り、天の恨みを吹きつけたような嵐の日の荒々しい雲
竹西 寛子 / ひとつとや amazon
夕立の前ぶれを思わせる金箔の沈うつな雲
林 京子 / 道 amazon
どんよりと垂れこめた雨雲の下に、墨絵のような風景が展(ひら)ける
外村 繁 / 筏 amazon
幾重にも横に刷毛で掃いたような薄雲の襞(ひだ)を夕陽が赤く爛(ただ)れさせる
福永 武彦 / 草の花 amazon
いまにも息絶えそうな雲
竹西 寛子 / ひとつとや amazon
霞か煙かとまごう淡いかすかな雲
竹西 寛子 / ひとつとや amazon
雲は岩のように低く垂れ
村上 春樹 / 1973年のピンボール amazon
渓谷の青い岩のような雲が月の周りを囲む
黒岩 重吾 / 背徳のメス amazon
連山の湧き出たごとく、海原にかかる大瀑布のごとく、横にのびた巨大な渦巻く雲
阿川 弘之 / 雲の墓標 amazon
古代の神々のように、雲がいくつも海の上に泛(うか)んでいる
三島 由紀夫 / 潮騒 amazon
雲が投網を投げたように散っている
伊集院 静 / 三年坂 amazon
煙のように薄白い雲が形もなく流れて星を舐(ねぶ)る
内田 百けん / 冥途・旅順入城式 amazon
幾百の高速船のように黒い雲が競争する
加賀 乙彦 / 海霧 amazon
曇った空に雨を含んだ雲が船のようにゆっくりと流れる
遠藤 周作 / 沈黙 amazon
どんよりと曇っていた空に、大きな指を拡げたような黒雲がゆっくりと流れてくる
遠藤 周作 / 沈黙 amazon
妙に透明な空に、墨をぶちまけたような雲がちぎれて散っている
高橋 和巳 / 我が心は石にあらず amazon
手足をばたつかせて地団太を踏んでいる子供を連想させる雲
竹西 寛子 / ひとつとや amazon
底部が確然たる一線をなしたお供え餅のような雲
大岡 昇平 / 野火 amazon
澄みきった空が、生絹(すずし)のようなちぎれ雲を高く浮かべる
落合 恵子 / センチメンタル・シティ amazon
海の反射で琺瑯(ホーロー)質のように固くつややかに見える雲
三島 由紀夫 / 午後の曳航 amazon
空の宮殿のように巨大な入道雲
遠藤 周作 / 沈黙 amazon
月が、黒い布のような雲に巻きこまれる
梅本 育子 / 桃色月夜 amazon
晴れた空を皺だらけのシーツのような雲が走る
倉橋 由美子 / ポポイ amazon
かすかに黄色味がかった濃い灰色の雲が、よじれた腸管のように気味悪くうごめく
日野 啓三 / 抱擁 amazon
死人の眼のように濁った灰色の雲
徳永 直 / 太陽のない街 (1968年) amazon
沈殿物が底の沈んだ上澄みのような灰色の雲
辻井 喬 / 暗夜遍歴 amazon
光の衰えた空に、鼠色の膜をかぶった臓物のような雲が低く垂れこめる
倉橋 由美子 / 倉橋由美子の怪奇掌篇 amazon
何がそんなに不服なのか尋ねてみたいようなふくれっ面の雲
竹西 寛子 / ひとつとや amazon
丘の上に、芋虫が立ち上がったような巻雲がおびただしく並ぶ
大岡 昇平 / 野火 amazon
濃い朱色の雲が、朱肉を滲ませた綿をキャンバスに叩きつけたような形で散らばっている
吉行 淳之介 / 砂の上の植物群 amazon
夕雲がもやしの三つ葉のような射光をひそませる
室生 犀星 / 室生犀星作品集〈第9巻〉汽車で逢った女,餓人伝 amazon
月が真綿雲の間をゆっくりと歩いていく
石森 延男 / コタンの口笛 第2部 amazon
雲は骨のように白く細く、空は突き抜けるように高かった。
村上 春樹 / ノルウェイの森 下 amazon
月が金色の油をといたように光る
林 芙美子 / 林芙美子文庫〈〔第9〕〉松葉牡丹 amazon
闇のさなかに、油を塗ったような満天の星が光る
加賀 乙彦 / 海霧 amazon
天の川の明るさが見る人をすくいあげそうに近い
川端 康成 / 雪国 amazon
重湯を流したような天の河が、黒い樹影と屋根の上に浮いている
岩田 豊雄 / 沙羅乙女 amazon
空に洗ったような月がのぼる良夜
藤沢 周平 / 三屋清左衛門残日録 amazon
熟れた杏のような太陽が山の端にかかる
獅子 文六 / てんやわんや amazon
糸で留めたような頼りない星の光
高樹 のぶ子 / 光抱く友よ amazon
微かな月光が城下の街を、墨絵のように浮かばせる
菊池 寛 / 忠直卿行状記 amazon
凡庸な、マンネリズムの風景画の空のような青空
阿部 昭 / 千年 (1977年) amazon
熱い雲の向こうに太陽が白い盆のように浮く
高井 有一 / 夜の蟻 amazon
赤熟した円盤のように輪郭のはっきりした太陽が照る
石坂 洋次郎 / 丘は花ざかり amazon
夜の空が晴れて、星が凍りつくように輝く
久米 正雄 / 学生時代 amazon
夏の終わりの入道雲には、見つめていると涙のにじみそうな輝きがある
竹西 寛子 / ひとつとや amazon
芝居の書き割りのような乾いた空
大岡 昇平 / 野火 amazon
月が、うらうらと靡(なび)いた霧の中に、まるで爪の痕かと思うほど、かすかに白く浮んでいる
芥川 龍之介 / 蜘蛛の糸・杜子春 amazon
月の光が鉱物質の硬さで樹木や敷石へ降りそそぐ
大江 健三郎 / 芽むしり仔撃ち amazon
月が数々の葉末を剣のように光らす
大岡 昇平 / 野火 amazon
釜のごとく澄んだ三日月
阿川 弘之 / 雲の墓標 amazon
澄みきってなめらかな玻璃(はり)のような青空
加賀 乙彦 / フランドルの冬 amazon
両側から黒い山なみの稜線に挟められた星空が、ちかちかと瞬く砂金の川のよう
三浦 哲郎 / モーツァルト荘 amazon
月がオレンジのように黄色い
大仏 次郎 / 雪崩 (1953年) amazon
雲の隙間に過去の記憶のように星がまたたいて消える
加賀 乙彦 / 海霧 amazon
金色の油をといたような月
林 芙美子 / 晩菊・水仙・白鷺 amazon
鎌の形をした下弦の月が、中空に舞台のバックのように釘付けになっている
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
星が無数の熟れた果実のように大きく美しい
加賀 乙彦 / 海霧 amazon
青白い月光が夢のようにそのあたりの風物を包む
志賀 直哉 / 志賀直哉小説選〈1〉(濁った頭) amazon
窓からもれる銀色の月光が、室内を水底のように浮き上がらせる
光瀬 龍 / 百億の昼と千億の夜 amazon
月の光が川面にちらちらと動いて編み針のように入り交じる
ジュール・ルナール / にんじん amazon
血痕のような太陽が、雲に洗われて今にも消え入りそう
加賀 乙彦 / 海霧 amazon
空に氷のかけらのような星が光る
小川 洋子 / 余白の愛 amazon
黒曜石のように黒い太陽が輝く
大岡 昇平 / 野火 amazon
広々と力強く大地を吸い込むような半球の空
加賀 乙彦 / 海霧 amazon
砂のような雲が空をさらさらと流れる
堀 辰雄 / 風立ちぬ amazon
月が青い氷のなかの刃のように澄み出る
川端 康成 / 雪国 amazon
まるで使い古された軽石みたいに見えた。誰かが空に放り投げ、それが何らかの理由でそのまま留まったのだ。
村上 春樹 / 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 amazon
今にも雪が降りそうだったが、まだ降り始めてはいなかった。雲はぴくりとも動かず、「ガリバー旅行記」に出てくる空に浮かぶ国みたいに、都市の頭上を重たく覆っていた。地上にある何もかもが灰色に染まって見えた。フォークもサラダもビールもみんな灰色に見えた。こういう日にはまともな事なんて何も思いつけない。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(上) amazon
水平線の上には猿人の頭骨のような形をした雲がひとつだけぽつんと浮かんでいた。雲はぴくりとも動かず、また動きそうな気配もなかった。それはどことなく頑迷そうな感じのする雲だった。漂白されたように真っ白で、輪郭はひどくはっきりしていた。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(下) amazon
巨大な猿人の巨大な頭骨(みたいな雲)。何処かの歴史の断層からこのホノルルの上空にこぼれ落ちてきたのだ。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(下) amazon
どことなく湿っぽく頭を抑えるように重苦しい感じがする。
長塚 節 / 土 amazon
煙は月を浴び、ちょうど濡れたように渦を巻く。
檀一雄 / 花筐「花筐・光る道 他四編」に収録 amazon
白いひげをたらした古代の遺跡のような行手の雲
安部 公房 / 他人の顔 amazon
通りかかった雲の、観音様の仰むけになったようなのが
中 勘助 / 銀の匙 amazon
山々の向うから、次々と大軍団のように雲がせり出して来る。
三島 由紀夫 / 金閣寺 amazon
向うの岩の割目から、水晶の綿のような雲が湧き出て
三浦 朱門 / 冥府山水図 amazon
ハンカチのような白い雲
庄野 英二 / 星の牧場 amazon
あの雲、ポップコーンみたいだな
干刈 あがた / 雲とブラウス「干刈あがたの世界〈1〉樹下の家族」に収録 amazon
薄明るい空に、だんだらになった白い雲が、卵の白身のように泡立っている。
林 芙美子 / 骨「新潮日本文学 22 林芙美子集 放浪記・稲妻・浮雲・風琴と魚の町・清貧の書・泣虫小僧・牡蠣・晩菊・骨・下町」に収録 amazon
動かない海と、屹立した雲の景色は十四歳の私の眼に壁のように照り輝いて写った。
林 芙美子 / 風琴と魚の町 amazon
夕焼けの雲が川面にうつって、古い木版画でも見るような美しさだ
安岡 章太郎 / 夕陽の河岸 amazon
日が西の空の土手のような雲の端に近く据って
長塚 節 / 土 amazon
煙りのような優しい白い雲がみのるの心を覗くようにしては幾度も通って行った。
田村 俊子 / 木乃伊の口紅 amazon
その雲は眼に見える風のようにたえず動いていた。
夏目 漱石 / 明暗 amazon
烏帽子岳(えぼしだけ)の頂のような形の雲
舟橋 聖一 / 木石 (1949年) amazon
海上を飛ぶと、眼界はるか、海と空とが合するところ、連山の湧き出たごとく@略@横にのびた巨大な渦巻く雲
阿川 弘之 / 雲の墓標 amazon
海原にかかる大瀑布のごとく、横にのびた巨大な渦巻く雲
阿川 弘之 / 雲の墓標 amazon
水平線から雲の峯が山羊を積みかさねたように、宙天に架け出され
岡本 かの子 / やがて五月に (1956年) amazon
青空に白い雲がうかんでいた。馬が何頭も何頭も後先になりながら走っていくような形をしていた。
庄野 英二 / 星の牧場 amazon
竜のウロコのような雲が空にひろがっている。
尾崎 士郎 / 人生劇場 青春篇 amazon
雲の一部分が、多くの重ね着の襟元にほの見える白い胸のように白光を放ち
三島 由紀夫 / 金閣寺 amazon
白い飛行船のように、悠々と白雲が浮いている。
獅子 文六 / 胡椒息子 (1953年) amazon
投げつけたような形の白雲が海を走り、日光のわりに物の影が淡い。
川端 康成 / 童謡 amazon
うす白い空を軽い煙のような黒雲が、あわただしくちぎれては消えて行く。
武田 泰淳 / 風媒花 amazon
烏賊が吹いた墨のような肌目のこまかい煙雲がもくもく湧き上った。
岡本 かの子 / やがて五月に (1956年) amazon
花キャベツのような形をした入道雲
大仏 次郎 / 宗方姉妹 (1954年) amazon
晴れ上がった空の青さもはり紙細工のようにつまらなく目に映ずるばかりだ。
石坂 洋次郎 / 若い人 amazon
青くひろごった空には、絹のような光沢が流れて来た。
藤森成吉 / 雲雀 amazon
空は鏡のように明るい
永井 荷風 / すみだ川 amazon
空は海一杯を映した鏡のよう
葉山 嘉樹 / 海に生くる人々 amazon
硝子のように澄んだ空
大岡 昇平 / 武蔵野夫人 amazon
藍を溶いたように明るい空
大仏 次郎 / 帰郷 amazon
染め付けられたような空から深い輝きが大地の上に落ちた。
夏目 漱石 / 道草 amazon
土耳古(とるこ)玉のような夏の午前の空
佐藤 春夫 / 田園の憂鬱 amazon
砂金をちりばめたような空
立野 信之 / 軍隊病「軍隊病―兵士と農民に関する短篇集 (昭和4年) (日本プロレタリア作家叢書〈第5篇〉)」に収録 amazon
太陽が、ギラギラとした光を投げていました。空は、水色というよりは、まぶしい大きな濃い火の粉の渦でした。
なだ いなだ / 童話ごっこ amazon
雲ひとつない深い空は、いちめんほのおのように大きくうずまき
松谷 みよ子 / 貝になった子ども amazon
紺碧に晴れた空は湖水のように澄みきって
尾崎 士郎 / 人生劇場 青春篇 amazon
空は深い海のように碧く、ひろびろと地平のかなたまで遠くはるかに、おなじみどりに澄んでいる。
森田 たま / 菜園随筆 amazon
空が、目に見えない速度で、ゆっくりと落ちかかってくるような気がした。
竹西 寛子 / 洋館の人達「兵隊宿 (講談社文芸文庫)」に収録 amazon
大空は乾いて光り輝いて陶器のように拡っている。
北杜夫 / 牧神の午後 amazon
希臘(ギリシャ)劇の大詰めみたいな豪勢な星空
稲垣 足穂 / 弥勒 amazon
灼熱する太陽がかれの背後から強姦者のようにおそいかかる
大江 健三郎 / われらの時代 amazon
灼けた円盤のような太陽がかかっており、クルクル廻転しながら、火を噴きそうな熱した光線を、太く烈しく地上に注ぎこんでいた。
石坂 洋次郎 / 山のかなたに amazon
きらきらとした太陽の銀盆が半分欠けているような、何か頼りない寂しさが四辺から迫って来た。
森田 たま / もめん随筆 amazon
太陽は光沢をなくした銅の金盥のような鈍い妖しい色
八幡良一 / 犬千代奮戦
太陽が、まるで焼いた銅のような怪しい赤黒色に鈍って見える。
相馬 泰三 / 六月 amazon
真鍮の喇叭(ラッパ)の響きのように鳴りわたる熱帯の太陽
三島 由紀夫 / 午後の曳航 amazon
黄いろい矮星(わいせい)のような太陽
倉橋 由美子 / 蠍たち amazon
青々とした空があり、赤い太陽が花のように照り
林 房雄 / 青年 (1964年) amazon
真珠のように輝いた太陽
稲垣 足穂 / 弥勒 amazon
地平線の上に楕円形の真赤な太陽が出ている。上下から押しつぶされ、卵のような恰好だ。
火野 葦平 / 麦と兵隊「土と兵隊・麦と兵隊 (新潮文庫)」に収録 amazon
空で太陽は射精管のように緊張して燃え上り絶頂にたって堰をきってあふれだそうとしている。
大江 健三郎 / われらの時代 amazon
霧は少しうすれて、どんより暗い空の一隅に、古い血のように濁った赤い色が一と筋滲んでいるのが見えた。
石坂 洋次郎 / 山のかなたに amazon
マシマロのように溶けてしまいそうに柔かい月が芝居の書割のようにぼんやりと浮かんでいる。
林 芙美子 / 女性神髄「女性神髄 (1949年) (養徳叢書〈日本篇 第45〉)」に収録 amazon
その月の色は私たちが時たま鶏卵の中に発見するような、黄身が赤みがかったものに似ていた。
庄野 潤三 / 相客「プールサイド小景・静物 (新潮文庫)」に収録 amazon
あの月、大根みたいじゃない? 切り損った薄切りの大根
向田 邦子 / 大根の月「思い出トランプ (新潮文庫)」に収録 amazon
昼の月が、やぶけたオブラートのように、青い空に張りついていた。
山本 有三 / 波 amazon
月はまるで青い氷のなかの刃のように澄み出ていた。
川端 康成 / 雪国 amazon
剃刀の尖(さき)ででも切ッたような薄い月
小杉 天外 / 初すがた amazon
日の丸のように大きな月
林 芙美子 / 耳輪のついた馬「風琴と魚の町/清貧の書 (新潮文庫 は 1-4)」に収録 amazon
赤銅のような色をした光芒のない大きい月
田山 花袋 / 蒲団 amazon
するどく傾(かし)いだ焔のような月の面
瀧井 孝作 / 無限抱擁 amazon
酸漿(ほおずき)のように赤ばんだ月
稲垣 足穂 / 弥勒 amazon
藤色の空に物憂い月が出て居る。卯の花のように白い白い月が。
石坂 洋次郎 / 若い人 amazon
月の全体の形も頭蓋骨に似ている。白銀の頭蓋骨だ。
佐藤 春夫 / 田園の憂鬱 amazon
細い、一枚の歯のような白い月
倉橋 由美子 / 霊魂「夢の通い路 (講談社文庫)」に収録 amazon
月はしだいにむこうの大木の梢に移ってゆき、そこでしばらくためらっているように見えた。
大岡 昇平 / 俘虜記 amazon
風に拭われたような下弦の月
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
雲がしきりに飛んだ。そのうち洗ったような月が出た。
夏目 漱石 / それから amazon
ほのかな光に海面をぬいて眉を逆さにしたような繊月の浮かぶのが見えた。
円地 文子 / 女坂 amazon
新月がキラキラと、紋章のように輝いている。
岩田 豊雄 / 沙羅乙女「獅子文六作品集〈第4巻〉沙羅乙女・信子 (1958年)」に収録 amazon
ちょうど大星に接近して土耳古(トルコ)の旗のようになっている新月
稲垣 足穂 / 弥勒 amazon
冬であるのに、新月は匂うように白金の眉を描いていた。
岩田 豊雄 / 沙羅乙女「獅子文六作品集〈第4巻〉沙羅乙女・信子 (1958年)」に収録 amazon
貝がらのようにほの白い夕月が、ほそくかかっていた。
永井竜男 / 風ふたたび「永井龍男全集 5 長篇小説 1」に収録 amazon
雪夜のように白い月光
檀 一雄 / 花筐「花筐―初期作品集 (1979年)」に収録 amazon
夏の月光が洪水のように蚊帳の中に満ちあふれた。
太宰 治 / 斜陽 amazon
月の光が木の間から細い噴水のようにながれこんで
庄野 英二 / 星の牧場 amazon
月の光。水の底にいるような青い光のなかに寝そべって、足の先でハンモックをゆすぶり
林 芙美子 / うず潮 (1964年) amazon
水のような月の光を浴びて
長塚 節 / 土 amazon
河水を照らす玉のような月の光
永井 荷風 / すみだ川 amazon
玉を繋ぐ細い糸筋のような月の光
宮本 百合子 / 伸子 amazon
蛇の鱗のようなつめたい月の光り
郡 虎彦 / 道成寺(一幕劇) amazon
氷のごとく澄める月影
高山 樗牛 / 瀧口入道 amazon
林の中にも月影が、松葉のように一ぱいこぼれ落ちている。
太宰 治 / お伽草紙 amazon
全天を蔽う巨大な樹枝状となって、さながら銀河のお化のように頭上にのしかかっていた。
稲垣 足穂 / 弥勒 amazon
あたかも手工の豆細工格子のようなものになって
稲垣 足穂 / 弥勒 amazon
空には星が、スクリーンの斑紋のように、吹き流されていた。
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
花束を解きほぐしたように大きな星々が燦めいている
稲垣 足穂 / 弥勒 amazon
とうがらしの花のように星のうつくしい秋の夜
田中冬二 / 暗夜
サラサラと淡雪をふり落とす松の梢の上に高く、二三の星が深淵の底に光る金剛石のように寒くまたたいていた。
長与 善郎 / 青銅の基督 amazon
氷のかけらのような星
松谷 みよ子 / 赤ちゃんのお部屋「黒い蝶・うさぎのてぶくろ ほか (松谷みよ子全集)」に収録 amazon
星が切れるように冴えかえっていた。
黒島 伝治 / 渦巻ける烏の群 amazon
星屑がまるで船の燈火のようにまたたいている。
林 芙美子 / 浮雲 amazon
ながれ星がいっぱい夕立のようにふりだした
庄野 英二 / 星の牧場 amazon
空からきゅうに花火がふるように、ながれ星がいっぱいふりだしてきた。
庄野 英二 / 星の牧場 amazon
月さえも出た北信濃の高原は、純白な紙の中を歩くようで
室生 犀星 / 杏っ子 amazon
昼間の咲き残りの花は水盤のごとく零れ落ちる月明かりを集めていた。
長野 まゆみ / 少年アリス amazon
まるでついさっき灰の山をくぐり抜けてきたみたいに全体が不思議な白みを帯びていた
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
空は蓋をかぶせられたように暗く、世界中が重い湿り気を帯びていた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
その無感覚な灰色の岩塊は、まるで目に見えぬ糸にぶらさげられたようなかっこうで、所在なさそうに空の低いところに浮かんでいた。そこには何かしら人工的な雰囲気が漂っていた。ちょっと見たところ、芝居の小道具で使われる作り物の月のように見えた。しかしもちろんそれは本物の月だった。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
間違いない。月は二個ある。 ひとつは昔からずっとあるもともとの月であり、もうひとつはずっと小振りな緑色の月だった。それは本来の月よりかたちがいびつで、明るさも劣っていた。行きがかりで押しつけられた、だれにも歓迎されない、貧しく醜い遠縁の子供のように見えた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
深く考え抜かれたあとの句読点のように、あるいは宿命が与えたほくろのように、それは無言のうちに揺らぎなく、夜空のひとつの場所に自らの位置を定めていた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
幾筋かの雲がとても高いところに浮かんでいた。それはあまりにも遠く、あまりにも高く、人間の営みとは関わりを持たないきわめて抽象的な考察のようにも見えた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
冷たい風が雲の群れを東京湾の方向に吹き流していった。雲はパテでこしらえられたもののように、それぞれ不定型に堅くこわばっていた。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
雲は次々に南に向けて空を吹き流されていた。どれだけたくさん流されても、あとからあとから雲は現れてきた。遥か北方の地にそれらの雲を無尽蔵に供給する源があるに違いない。頑なに心を決めた人々が、灰色の厚い制服に身を包んで、そこで朝から晩までただ黙々と雲を作り続けているのだ。蜂が蜜を作り、蜘蛛が巣を作り、戦争が寡婦を作るように。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
雲の群れは倦むことなく空を南に向けて横切っていった。様々なかたちとサイズの雲がやってきて、そして去っていった。中にはずいぶん興味深いかたちをした雲もあった。彼らには彼らなりの考えがあるように見えた。小さく堅く、輪郭のはっきりとした考えが。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
様々なかたちと大きさの雲が空を素速く吹き流されていく。雲は白く緊密で、輪郭がくっきりとして、雪解けの川を海に向けて運ばれていく堅い氷塊のようにも見える。いずこからともなく現れて、いずこへともなく消えていくそんな夜の雲を見ていると、自分が世界の果てに近い場所に運ばれてきたような感覚があった。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
雲は前と同じように速いスピードで空を横切っていった。それは南に流され、東京湾の上に出て、更に広大な太平洋に出ていくはずだ。そのあと雲がどのような運命をたどるのかはわからない。死後の魂のあり方を誰も知らないのと同じように。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
数え切れないほどの雲があとからあとから、かさにかかった軍団のように押し寄せてくる。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
いつもながらの冬の月だ。冷ややかで青白く、太古から引き継がれた謎と暗示に満ちている。それは死者の目のようにまばたきひとつせず、黙して空に浮かんでいる。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
水彩画家が好みそうな雲が空に淡くたなびいている。ブラシの繊細なタッチが試されるところだ。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
通り過ぎたばかりの雲の縁が、月の明かりに淡く染められている。長いスカートの裾をうっかり染料に浸けてしまったみたいに。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
新しい雲がやってきて、時間をかけて二つの月を呑み込んでいく。舞台のカーテンが音もなく降りるように、世界を包んだ影が一段深みを増す。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
沿道から夜空を見上げる人達の顔は、赤や青や緑など様々な色に光ったので、彼等を照らす本体が気になり、二度目の爆音が鳴った時、思わず後ろを振り返ると、幻のように鮮やかな花火が夜空一面に咲いて、残滓を煌めかせながら時間をかけて消えた。自然に沸き起こった歓声が終るのを待たず、今度は巨大な柳のような花火が暗闇に垂れ、細かい無数の火花が捻じれながら夜を灯し海に落ちて行くと、一際大きな歓声が上がった。
又吉 直樹 / 火花 amazon
綺麗な満月だ。じっと見つめていると、いかにもこの病室へ優しい使者たちによる迎えが来そうに思えるほどだった。
羽田 圭介 / スクラップ・アンド・ビルド amazon
空の遠くにまるで巨大な亀頭のような白い積乱雲が見える。澄みきった青空の中で、近づいてきているのか遠のいているのかもわからないそのシルエットは、異様な存在感を呈していた。
羽田 圭介 / スクラップ・アンド・ビルド amazon
濃い鼠色の、隆々とした筋肉を思わせる雲が街を覆っている
伊坂 幸太郎 / グラスホッパー 角川文庫 amazon
星がきれいなのは、星に花が咲いているからだよ。
サン=テグジュペリ / 星の王子さま amazon
窓の外を見ると、巨大な満月が夜の街の上に昇っていた。その月の色は深く、どこかに吸い込まれていくようで、見ている者の目を通過し、さらに内面へ光を届けにくるようで、あまりにも強い輝きに思えた。まるで鼓動のように、その光は微かな強弱を含んでいる。
中村文則 / 教団X amazon
屋根瓦が高いところで、幽かに光る。数万の甍(いらか)に、数万の月が落ちたようだ
夏目 漱石 / 草枕 amazon
六畳の間に十一人もつめこまれ、夏のことゆえ、むし鮨(ずし)のようにむれてしまいました。
林 房雄 / 青年 (1964年) amazon
舞台とは反対の方面で、しきりに花火を揚げる。花火の中から風船が出た。帝国万歳とかいてある。天主の松の上をふわふわ飛んで営所のなかへ落ちた。次にぽんと音がして、黒い団子が、しゅっと秋の空を射抜くように上がると、それがおれの頭の上で、ぽかりと割れて、青い煙が傘の骨のように開いてだらだらと空中に流れ込んだ。風船がまた上がった。
夏目 漱石 / 坊っちゃん amazon
空は薄く引き伸ばしたような青色をしていて、まるで頭上にも海が広がっているかのよう
伊坂 幸太郎 / オーデュボンの祈り amazon
頭上には大海のように夜空が広がっている。
伊坂 幸太郎 / オーデュボンの祈り amazon
綿飴を引き伸ばして、引き伸ばして、力いっぱい薄くしたような雲
あさの あつこ「ガールズ・ブルー〈2〉 (文春文庫)」に収録 amazon
薄雲が好きだ。キャミの裾についた上等のレースに似ていると思う。
あさの あつこ「ガールズ・ブルー〈2〉 (文春文庫)」に収録 amazon
太陽だってとても小さいんだ。ホーム・ベースの上に置いた夏みかんを外野から見るくらいに小さい。
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
空には刷毛で引いたような細い雲が幾筋か流れ
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
今日の夜空は星も月も出ていないのに明るい。雲のぼんやりとした半熟の白みが、空を覆いつくして闇をさえぎり、夜を完全にしない。
綿矢 りさ「しょうがの味は熱い (文春文庫)」に収録 amazon
あたりの空気が静かに乾いたように明るい
川端 康成 / 掌の小説 amazon
川面に映った月が波に砕けて、ひっくり返した宝石箱のようにきらめいていた
郷原宏 / わが愛の譜 amazon
銀粉をぶちまけたような明るい青空
海音寺塩五郎 / 戦雲「武道伝来記」に収録 amazon
黒い空に銀紙でも張ったような明るい月
阿刀田高 / ミッドナイト物語 amazon
濃い朱色の雲が、朱肉を滲ませた綿をキャンバスに叩きつけたような形で散らばっている
吉行淳之介 / 夕暮まで amazon
空は金と銀の砂子蒔絵
林房雄 / 恐怖の花(双生真珠) amazon
空は朗らかに晴れ、絵巻のように黄金に輝いた雲が浮かんでいた
三島由紀夫 / 花ざかりの森 amazon
空を仰ぐと、遥か高いところで豆粒ぐらいのダイヤモンドのようなものが白くチカチカ輝いていて、眩しくてとても目を開けていられない
三浦哲郎 / ユタとふしぎな仲間たち amazon
月明かりに蜜柑が狐火のようにポツポツと浮かんで、まるで夢のともし火の海
川端康成 / 掌の小説 amazon
夏の終わりの入道雲には、やんちゃ坊主のあがきのようなおかしさがある
竹西寛子 / ひとつとや amazon
西の空に赤い鳥の羽を一面にまき散らしたような夕焼けの雲
大庭みな子 / 桟橋にて「三匹の蟹」に収録 amazon
日が暮れて間もない闇の奥から、きらきらする見慣れない星たちが、後ろに長い光の尾を引いてこっちに迫ってくるよう
内田百閒 / 凸凹道(箒星) amazon
無数の砂金ぐらいの光がちりりと冷たそうに震えている
竹下文子 / 風町通信(星を拾う) amazon
指を入れでもしたら染まるような空の青さ
塩野七生 / ロードス島攻防記 amazon
その他の風景を表す比喩表現
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