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忘れる・思い出せない・曖昧な記憶の表現・描写・類語
(記憶は)まるで遠くでゆらめく蜃気楼のようにつかみ所がない
七尾 与史 / 死亡フラグが立ちました! (宝島社文庫) amazon
古い記憶が、障子に映って消える小鳥の影のように、心の窓を掠めて消えて行く
小沼 丹 / 小さな手袋 amazon
琥珀の中に閉じこめられた遠い記憶
森 瑤子 / 傷 amazon
遠い祖先の代から連綿と意識下に伝わってきたような記憶
池澤 夏樹 / シネ・シティー鳥瞰図 amazon
幻灯のなかの光景のようにぼんやりした記憶
辻井 喬 / 暗夜遍歴 amazon
あれはいつのことだっけ、と青豆(人名)は思った。しかし時間は記憶の中でからまりあい、もつれた糸のようになっている。まっすぐな軸が失われ、前後左右が乱れている。抽斗の位置が入れ替わっている。思い出せるはずのことがなぜか思い出せない。今は一九八四年四月だ。私が生まれたのは、そう一九五四年だ。そこまでは思い出せる。しかしそのような刻印された時間は、彼女の意識の中で急速にその実体を失っていく。年号をプリントされた白いカードが、強風の中で四方八方にばらばら散っていく光景が目に浮かぶ。彼女は走っていって、それを一枚でも多く拾い集めようとする。しかし風が強すぎる。失われていくカードの数も多すぎる。1954, 1984, 1645, 1881, 2006, 771, 2041……そんな年号が次々に吹き飛ばされていく。系統が失われ、知識が消滅し、思考の階段が足元で崩れ落ちていく。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
その名前にもはっきり聞き覚えがある。しかし記憶はなぜかひどく漠然としてとりとめがなかった。彼が手で探りとれるのは、事実らしきもののいくつかのあやふやな断片だけだった。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
(言いたいことを忘れる)自分がどんな文脈で話をしようとしていたかを、一瞬見失ってしまうのだ。強い風が突然吹いて、演奏中の譜面を吹き飛ばしてしまうみたいに。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 1 amazon
(いつだったか)思い出せない。時間の流れが不均一になっていて、距離感が安定しない。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
(曖昧な記憶)乱れたビデオの画面のように錯乱した記憶
日野 啓三 / 夢の島 amazon
もはや忘れたことすら気づいていない記憶がたくさんある。忘れてはいないのだが、もう死ぬまで思い出さないかもしれない記憶もあって、考えようによったら忘れるよりもその方が残酷だ。
滝口 悠生 / 死んでいない者 amazon
(覚えていない)「多分その方が楽だからさ。」
村上春樹「風の歌を聴け (講談社文庫)」に収録 amazon
結局何を考えていたかを思い出せず消化不良になる
綿矢 りさ「しょうがの味は熱い (文春文庫)」に収録 amazon
話したか聞いたかした内容のひとひらだけが、ちらりと脳裏を思わせぶりにゆくことがあり、それをはっと掴むもそれは不思議なもんで、音声として再現される場合もあれば文字として現れることもあるのやけど、しかしその独立したひとひらだけがいつもなぜか思い出されるのであって、それをいつどこで誰といかように話して、その会話なり対話なりがいったいどんな結びを得たかという文脈の累々は奇麗にぶち切れてあるので、じっさいに自分が誰かとした会話なのか、単に本で読んだだけなのか、テレビかなんかで耳に入っただけなのかの真相が壊滅的にはぐれておってそんな始末。
川上 未映子「乳と卵(らん) (文春文庫)」に収録 amazon
スマフォで飛驒の山並みを検索する。記憶の中の風景とマッチする稜線を探す。
新海 誠「小説 君の名は。 (角川文庫)」に収録 amazon
それからの記憶が、まるで前世の記憶みたいに遠くぼやけている。
新海 誠「小説 君の名は。 (角川文庫)」に収録 amazon
記憶の彼方に消えて行って仕舞った
岡本かの子 / 母子叙情 青空文庫
どうしても、覚えのある気はするが、記憶をつかむ努力に疲れて、眼を反 らした。
吉川英治 / 雲霧閻魔帳 青空文庫
いつも自分の頭へ浮かんで来るわけのわからない言葉があったことを吉田は思い出した。それは「ヒルカニヤの虎」という言葉だった。《…略…》吉田は何かきっとそれは自分の寐 つく前に読んだ小説かなにかのなかにあったことにちがいないと思うのだったがそれが思い出せなかった。また吉田は「自己の残像」というようなものがあるものなんだなというようなことを思ったりした。
梶井基次郎 / のんきな患者 青空文庫
僕にはその女を思いだすことができなかった。まるでキリコの絵の中の情景のように、女の影だけが路上を横切って長くのびていた。
村上春樹 / ねじまき鳥と火曜日の女たち「パン屋再襲撃 (文春文庫)」に収録 amazon
僕が思い浮かべることのできるワタナベ・ノボルの姿はまるで失敗した似顔絵のようにどことなくいびつで不自然だった。特徴だけは似ているのだが、肝心な部分がすっぽりと欠落している。彼がどのような歩き方をしたのかさえ、僕にはもう思いだせないのだ。
村上春樹 / ねじまき鳥と火曜日の女たち「パン屋再襲撃 (文春文庫)」に収録 amazon
(記憶喪失前にとった自分の写真を見て)くっきりと痕跡を残している過去にまみれて現在が宙に浮いている
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon
確かに彼女は変わった。 でも、いつから、どんなふうになのかは思い出せない。 つらつらと画面だけが浮かぶ。
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon
(事故あと過去の記憶があいまいになるが以前と同じ生活を続ける)目が悪くなってコンタクトを入れる、そういうのに似ていた。私にとってあの事故とその後のことは。 あんなすごいことがおこったのに、単に私が私としてだらだら生き続けていつか死んでゆく、そういう流れの中に自分の中でいつの間にか自然に溶け込んでいる。日常というものの許容量とは、おそろしいものだ。
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon
私はそんなことさっぱり覚えていなかった。別人の話かと思ったくらいだ。
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon
(記憶喪失)生まれ変わったようなまなざしでまだよくわからない、なじみのないこの世界にひとり立ったとき、何もかもが不確かで手探りの状態の不安な新しい私
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon
(タマリスクという花の名が思い出せない)あれはなんという名だったか。砂嵐に 烟って一面に咲き乱れるという紅紫色の花。どうしても思い出せない。タマ……タマス……タクマ……タリスマ……タクラマ……。口のなかでどう唱えても最後にはタクラマカンという語になってしまう。
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
(記憶の混乱)実際に経験したことと、後から伝聞で知ったことが交錯していて、現実と思い込みの区別がつかない
翔田 寛「真犯人 (小学館文庫)」に収録 amazon
(消え入りそうな記憶)もう随分と崩れやすくなってしまっている彼女の記憶
平野 啓一郎「マチネの終わりに (文春文庫)」に収録 amazon
「ナショナル・インベストメント……」 佃は記憶の底を 浚ったが、思い出せなかった。
池井戸潤「下町ロケット (小学館文庫)」に収録 amazon
いつ忘れてもおかしくないくらい、遠くてあやふやな記憶だった。
小川洋子 / ダイヴィング・プール「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
マサコさんはなにかすてきなハワイアンネームで呼ばれていて、それは多分花の名前なのだけれど、私はすっかり忘れてしまい、その名前の響きだけが甘い香りみたいに耳に残ったままになった。 花の香りがしてくるような発音だったのだ。
よしもとばなな / まぼろしハワイ「まぼろしハワイ」に収録 amazon
病気のせいか、脳味噌のほうも半分分厚い半透明のビニールをかぶったようで 焦れったくなる。
向田邦子 / かわうそ「思い出トランプ(新潮文庫)」に収録 amazon
二十七、八年も前で、ほとんど記憶の底に沈んでいて思い出しもしなかった
山田太一「飛ぶ夢をしばらく見ない」に収録 amazon
「あんたのお父さん、腕のええ船頭やったそうやなあ」 喜一は黙っていた。父親のことは記憶にないようだった。
宮本 輝 / 泥の河「螢川・泥の河(新潮文庫)」に収録 amazon
たいした話は覚えていないらしい。記憶の端に残っているという程度
百田尚樹「永遠の0」に収録 amazon
背は、高かったと思う。それとも背筋がすっと伸びていて、首が長かったからそう見えたのかもしれない。
浅田次郎 / 伽羅「鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)」に収録 amazon
私は出来るだけ過去に類似の情況を探してみたが、無駄であった。それは記憶の外側の、紙一重のところまで来ていながら、不明の原因によって、中に入り得ないようであった
昇平, 大岡「野火(のび) (新潮文庫)」に収録 amazon
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