歓楽街・盛り場の表現・描写・類語

歓楽街の酔狂なさざめき

何気なく空を見た。街のあちらこちらでネオンが灯っている。それは、いつもと変わらない。渋谷の風景だった。

酒を含んだ人間と、しらふの者が、半分半分ほどの割合で周囲を歩いている。

（場末の盛り場）ビール瓶が山となって割れてあったりと、とにかく乱雑なものであって、まあよくゆや人懐っこく気取らぬ地域ではあるけれども

（銀座の人波）むらな雨雲のように押し合って塊ったり、意味なく途切れたりしつつ、大体の上では、町並の側と車道の側との二流れに分れて、さらさらと擦れ違って行く。すると、それがいかにも歓（よろこ）びに溢（あふ）れ、青春を持て剰（あま）している食後の夜の町のプロムナードの人種になって、特に銀座以外には見られぬ人種になって、上品で綺羅（きら）びやかな長蛇のような帯陣をなして流れて行く。

（深夜の盛り場）たてた戸の間から金盥（かなだらい）を持って風呂へ出かけてゆく女の下駄が鳴り、ローラースケートを持ち出す小店員、うどんの出前を運ぶ男、往来の真中で棒押しをしている若者などが、異様な盛り場の夜更けを見せている。昼間は雑閙（ざっとう）のなかに埋れていたこの人びとはこの時刻になって存在を現わして来る

花見帰りの金魚のようなお嬢さんや、紳士達が、夜の駅にあふれて、あっちにもこっちにも藻（も）のようにただよい仲々賑（にぎや）かだ。

イルミネーションの光りの方がむじひだ。皮を剥（は）いだ、底の底まで見透せる妙な光りかたである。美人が少しも美人にはみえない。光りの空、息苦しい光彩の波の中に、人はひしめきあっている。

市場のようににぎわい続ける街

混じりあってそのひとつひとつの本来の意味を喪失してしまった人々のざわめきや、どこからともなく次々にあらわれて耳をとおり抜けていくこまぎれの音楽や、ひっきりなしに点滅をくりかえす信号とそれをあおりたてる自動車の排気音、そんな何もかもが空からこぼれ落ちてくる無尽蔵のインクのように夜の街に降りかかっていた。夜の街を歩いていると、そのようなざわめきや光や匂いや興奮の何分の一かは本当は現実に存在しないものであるように僕には思えた。それらは昨日や一昨日や、先週や先月からの遠いこだまなのだと。

冬の澄んだ空気にさまざまな店のディスプレイが映って、おとぎばなしのように美しかった。

土曜の宵の盛り場の公園ほど、人々に忘れ去られている所はない。静かに沈黙した夜気を選り分けて、二人は奥に歩いて行った。

（道頓堀川）夜、幾つかの色あざやかな光彩がそのまわりに林立するとき、川は実像から無数の生あるものを奪い取る 黯 い鏡と化してしまう。不信や 倦怠 や情欲や野心や、その他まといついているさまざまな 夾雑物きょうざつぶつ をくるりと 剥いで、鏡はくらがりの底に簡略な、実際の色や形よりもはるかに美しい虚像を映し出してみせる。

（雨の歓楽街）水溜まりにネオンの色が落ち、それが宗右衛門町筋の路面に色とりどりの光を散らせている。

ひんやりした風が歓楽街の臭気を濁らせたり消したりしている。

（遠くに見える歓楽街の光）あんな 眩 ゆい、物寂しい光の 坩堝るつぼ の中で生きているのか。《…略…》そこから見ると、道頓堀は小さくはかなく、遠い辺境の地であるかのように映る

（遠くに見える歓楽街の光）心の中には、幸橋の上から 眺めた道頓堀の遠い 光芒こうぼう が映し出された。 眩まば ゆく華やかな眺めであったはずだったが、邦彦には、かつて見たこともない冷え冷えとした、ひどくちっぽけな景観として心に 甦って来るのである。 　色とりどりの光をまとった船が、暗い海原に出航して行き、それを視界から消え去るまでじっと見送っていた、そんな空虚な寂しさがまといついて、邦彦は幸橋から見えていた夜の道頓堀が、人気のない一 艘そう の満艦飾の船みたいだったように思えるのだった。

（窓に）流れ込むネオンの余光が、部屋の中を赤く青く交互に染めていく。

（繁華街は）宵になれば祭のように 賑わった