枕木のように床に置き捨てになっている学生の顔

死んだ魚のようにくたばっている

天保山（てんぽうざん）の安宿の二階で、何時（いつ）までも鳴いている猫の声を寂しく聞きながら、私は呆（ぼ）んやり寝そべっていた。

じりじりと照りつける陽の光と腹匍（はらば）いになった塚の熱砂の熱さとが、小初の肉体を上下から挟（はさ）んで、いおうようない苦痛の甘美（かんび）に、小初を陥（おとしい）れる。

（午後の穏やかな日差しが射す部屋で、）長椅子の上に横たわった。 　彼女の両手は組合わされて頭の下にあった。その下にクッションがかさなって柔かく心持よく押しつけられている。肱かけの部分が高いので、長椅子は彼女の眼のところに程よい陰翳を与えた。暖かい……室内は絶対に物音せず、わずかに、開いた窓から気にならない程度に市街のどよめきが流れて来る……神経を撫で和らげられるので、伸子は眠いようになった。

うつぶせの姿は人間のようには見えず、私には一瞬それが無意味な大きな黒い汚点、雨後の路上の濁った水たまりのように見えた。

一列に太陽に向いて、それを拝むようにしてまっすぐに立った

地面を足で蹴って回転椅子を回す

女たちがかしこここにいくつかの固い群れになって、石ころのようにこちんと立っている。

虫が死んだように、横になったまま動かない

長いハードな一日だった。犬のように眠りたい。

（二度寝）さめぎわの快い眠りにまた静かに落ちて行った。

（現実の世界と夢の世界の）二つの異なった世界が、彼女の意識を無音のうちに奪い合っている。まるで大きな河口で、寄せる海水と流れ込む淡水がせめぎ合うように。

天保山（てんぽうざん）の安宿の二階で、何時（いつ）までも鳴いている猫の声を寂しく聞きながら、私は呆（ぼ）んやり寝そべっていた。

谷底へ転がり落ちていくような眠気