天岩戸に、天照が隠れちまったのと一緒だな。渉が寝たきりだから、こっちの世界は真っ暗だ。

明け方から大きないびきをかき始めて、それから一度も目を開かない

夢の世界に行ったきり

（頭蓋骨の内側には、）いったいどんな姿かたちをした意識が身を潜めているのだろう。それともそこにはもう何ひとつ残されていないのだろうか。見捨てられた家屋のように、家財や器具は残らず運び去られ、かつて住んでいた人々は気配も残さず消え失せてしまったのだろうか。しかしもしそうだとしても、その壁や天井には、時々の記憶や光景が焼き付けられているはずだ。長い時間によって培われたものは、それほどあっけなく無の中に吸い込まれたりはしない。父親はこの海辺の療養所の簡素なベッドに横たわりながら、同時に内奥にある空き屋のひっそりとした暗闇の中で、余人の目には映らない光景や記憶に囲まれているのかもしれない。

父親は途切れることのない昏睡の中にいた。麻痺が慈悲深い衣のように、彼の全身を包んでいる。

頭の線が一本切れる

未知の世界の印象が遠雷のように、遠く轟いてきてまた消え去る

変な感じがした。 　何かがずれているような、釈然としない、何とも言えない感じだった。

それは折り重なり、まるで蜃気楼のような奇妙な既視感を生んで

「ああなるほど」と気のついたことがあった。