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男の胸に顔を寄せた。悲しいような動悸 を聞いた。悩ましい胸の哀れなひびきの中に、しばし私はうっとりしていた。切ない悲しさだ。女の業 なのだと思う。私の動脈はこんなひとにも噴水の様なしぶきをあげて来る。吉田さんは慄えて沈黙っていた。私は油絵具の中にひそむ、油の匂いをこの時程悲しく思った事はなかった。
※備考※ 吉田さんは絵の具の匂いをぷんぷん漂わせた画学生
林芙美子 / 新版 放浪記 ページ位置:12% 作品を確認(青空文庫)
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抱擁・抱き合う・抱きしめる
切ない・やるせない
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前後の文章を含んだ引用
......ますか、白秋の詩ですよ。貴女を見ると、この詩を思い出すんです。」 風鈴が、そっと私の心をなぶっていた。涼しい縁端に足を投げ出していた私は、灯のそばにいざりよって男の胸に顔を寄せた。悲しいような動悸 を聞いた。悩ましい胸の哀れなひびきの中に、しばし私はうっとりしていた。切ない悲しさだ。女の業 なのだと思う。私の動脈はこんなひとにも噴水の様なしぶきをあげて来る。吉田さんは慄えて沈黙っていた。私は油絵具の中にひそむ、油の匂いをこの時程悲しく思った事はなかった。長い事、私達は情熱の克服に努めていた。やがて、背の高い吉田さんの影が門から消えて行くと、私は蚊帳を胸に抱いたまま泣き出していた。ああ私には別れた男の思い出の方が......
単語の意味
切ない(せつない)
動悸(どうき)
胸(むね)
切ない・・・悲しさや寂しさや恋しさで、胸がしめつけられる気持ちのこと。やりきれない思い。やるせない思い。
動悸・・・心臓がいつもよりドキドキすること。自分で感じられるほどの、強い胸の鼓動。
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彼の腕の中に身を預ける。サヤの中に収まる豆のように。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 3 amazon
スタンはサユリを抱き締めた。彼女の 耳朶 は彼の心臓の音にたたかれる。
山田詠美「新装版 ハーレムワールド (講談社文庫)」に収録 amazon
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有島武郎 / 或る女
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雛鳥のように待ってる
伊坂 幸太郎「陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)」に収録 amazon
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林芙美子 / 新版 放浪記
張りつめていた膀胱が次第に楽になり、
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