私は、吸い物椀を前にして、椀が微（かす）かに耳の奥へ沁むようにジイと鳴って いる、あの遠い虫の音のようなおとを聴き

鰹節でも昆布でもないうまみ。塩とも醤油ともつかない調味。すべてが渾然一体に溶け合って生まれる味だ

（具だくさん汁）こんな鮮やかな味わいの合唱を楽しめるなんて！

しゃれたおいしい味の吸い物

餅の浮いた澄まし汁

穴子の蒲焼や、鶏肉やタマネギ、三ツ葉、椎茸などが入った、親子焼と称する卵焼、海老の塩焼、サザエの煮物、白魚、菜の花の芥子漬、それに南瓜やコンニャク、椎茸、筍やフキの煮物に、ヒラマサと旗魚鮪の刺身、筍飯という献立が美しく折箱に入っている。

見事なお節料理に圧倒された。それは手のこんだきらびやかな工芸品のようで、食べ物には見えなかった。

とろろ飯の前に、いろいろと出る。 　会席のまねごとであるが、〔待月楼〕のような料亭になると、こうしなくては算盤が合わぬことになる。

四季の季節感と新鮮な素材の持ち味を生かした淡白な味、包丁さばきといわれる繊細なワザ、形や色彩の美しさを重んじる盛り付け、器の多様性と芸術性が特徴で、目で楽しむ料理といわれている

熱い汁に息を吹きかけて食べると、全身が温まる