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(余命宣告を受けた患者との会話)「僕は、いろいろなことを何にも知らないまま、死んでいくんだね。結婚だって僕には絶対経験できないことだ。時間がなさすぎる。」 と、わたしから目をそらさずに言った。ベッドとわたしの間に、一つ一つの言葉がゆらゆらと落ちていくような気がした。それをどうやって拾い集めたらいいのか分らなかった。彼が自分の死についてそんなにも具体的に考えていることを知って、氷を無理矢理飲まされたように胸が痛んだ。
小川洋子 / 完璧な病室「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 ページ位置:72% 作品を確認(amazon)
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余命宣告・死の覚悟
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前後の文章を含んだ引用
......になるくらい煮詰まって、それで結局彼は帰ってこなかったりすることもあるしね。」「へえ。」 弟はおおげさ過ぎるくらいに大きくうなずいた。そして、しばらくしてから、「僕は、いろいろなことを何にも知らないまま、死んでいくんだね。結婚だって僕には絶対経験できないことだ。時間がなさすぎる。」 と、わたしから目をそらさずに言った。ベッドとわたしの間に、一つ一つの言葉がゆらゆらと落ちていくような気がした。それをどうやって拾い集めたらいいのか分らなかった。彼が自分の死についてそんなにも具体的に考えていることを知って、氷を無理矢理飲まされたように胸が痛んだ。「僕は、セックスだって知らないまま、死ぬんだ。」 その時くらい、セックスという言葉が無垢に響いたことはなかったと思う。弟の表情は、悲しそうでも淋しそうでもなく、......
単語の意味
胸(むね)
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余命宣告・死の覚悟の表現・描写・類語(生と死のカテゴリ)の一覧 ランダム5
人は自分の死を自覚したときから、生きる希望と死への折り合いをゆるやかにつけていくだけなんだ。たくさんの些細な後悔や、叶えられなかった夢を思い出しながら。
川村 元気 / 世界から猫が消えたなら amazon
(弟の余命は十三カ月と告げられる)「十三カ月……」 その数字をかみくだくのに、少し時間がかかった。今まで十三カ月などという数字について、しみじみと考えたことがなかったからだ。十三カ月で人は何ができるのだろう。赤ん坊なら立って歩くことを覚える。浪人生は大学生になり、恋人同士は夫婦になる。いろいろな尺度でその数字を測ろうとした。けれど、弟にとっての十三カ月がどんなものになるのか想像しようとすると、胸の中で、熟れすぎた果肉がべちゃべちゃと潰れていくように気持ち悪く息苦しくなって、うまく考えをまとめることができなくなった。
小川洋子 / 完璧な病室「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
死病を宣告されると、これまで想を練っていた新しい方向がひどく鮮明に浮んできた。事実、その着想を得たときは昂奮して二、三日は夜も眠れなかった。その後もずっとその考えを追ってきたのだけれど今までぼんやりとしていたそれがここで明確になってきた。それも生きる期間を制限されて気持が急に真剣になったものか、神経的な感覚が尖鋭になったものかよく分らなかった
松本 清張 / 与えられた生「松本清張ジャンル別作品集(3) 美術ミステリ (双葉文庫)」に収録 amazon
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闇の中に氷のような殺気が走る
光瀬 龍 / 百億の昼と千億の夜 amazon
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全部の筋肉が精一杯に緊張していて美しかった。
小川洋子 / ダイヴィング・プール「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
びっくりしたり胸打たれたりしてほしかった。 できないほど、疲れている。
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon
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花の散るがごとく、葉の落つるがごとく、わたくしには親しかったかの人々は一人一人相ついで逝ってしまった。
永井 荷風 / ぼく東綺譚 amazon
ネコの死骸そのものより、誰かが殺したという事実が怖い。そこにある意思や感覚が怖い。
あさの あつこ「ガールズ・ブルー (文春文庫)」に収録 amazon
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