渋滞の見本帳に載せたいような立派な渋滞

カーラジオの交通情報が、東名高速上り線の渋滞が四十キロに達したと告げた。

渋滞が堰を切ったように流れ出す

連なった車はどれも甲虫のようにアスファルトを這っている。

二十分で行ける道程が、土曜日曜には二時間もかかった

彼女の運転はうまかった。外国で免許を取った人特有の大胆なドライビングだったが、運転に慣れていて不安がなかった。

二人は並んだ顔が景色に透けて、車窓を夜と共に走ってゆくのを見つめ合った。

街の灯りを頬に流しながら、風人は言った。

電車は乗っているさまざまな人の人生を、ただただ目的地に向かって静かに揺れながら運んでいた。

一日中船室の丸窓から東支那海の黒い海面が、浮んだり、沈んだり、傾いたりします。

（遺体安置室）父親の遺体は、療養所の目立たない一画にある、目立たない小部屋に安置されていた。《…略…》父親は移動式のベッドの上に仰向けに寝かされ、白い布をかけられていた。窓のない真四角な部屋で、白い壁を天井の蛍光灯がいっそう白く照らしていた。腰までの高さのキャビネットがあり、その上に置かれたガラスの花瓶には、白い菊の花が三本さしてあった。花はおそらくその日の朝に活けられたのだろう。壁には丸形の時計がかかっていた埃をかぶった古い時計だが、指している時刻は正確だった。それは何かを証言する役目を担っているのかも知れない。そのほかには家具もなく装飾もない。たくさんの老いた死者たちが同じようにこの簡素な部屋を通過していったのだろう。無言のままここに入ってきて、無言のままここを出て行く。その部屋には実務的ではあるが、それなりに厳粛な空気が大事な申し送り事項のように漂っていた。

（自動改札機を通り抜けたところ）夕方のラッシュアワーがはじまりかけていて、もたついていると無言の人の群れが前後左右からぶつかってくる。

安上がりな葬儀

戦争というものは、人間の生命をまったくごみのように無視して成立する

ドアの鍵穴に鍵が差し込まれる音がする。