（女が受動的なセックス）僕が抱くと彼女はそれに温かく応えてくれたけど、決して自分の方から要求したり、積極的に何かをしたりということはなかった。僕に抱かれているとき、キキは体の力を抜いて、とてもリラックスしてそれを楽しんでいるように僕には思えた。

水島は射精の瞬間を少しでも先にのばしたがっている。何度か動きを止め、あるいは身体を離し、鎮まるのを待つ。

彼と異性の肌から醗酵する、汗の香、涙の香、黒髪の香が……燃え抜けた飽慾のあとの肉体にあまい気だるさとなって

倉地と葉子とは互い互いを楽しませそしてひき寄せるためにあらん限りの手段を試みた。葉子は自分の不可犯性（女が男に対して持ついちばん強大な蠱惑（こわく）物）のすべてまで惜しみなく投げ出して、自分を倉地の目に娼婦（しょうふ）以下のものに見せるとも悔いようとはしなくなった。二人（ふたり）は、はた目には酸鼻（さんび）だとさえ思わせるような肉欲の腐敗の末遠く、互いに淫楽（いんらく）の実（み）を互い互いから奪い合いながらずるずると壊（こわ）れこんで行く

（セックスで演技する）息を合わせた演技をすること。それだけを心がける。感じていないとわかれば、水島はきっと十和子を捨てる。十和子は五感を研ぎ澄ます。シナリオが指し示す絶妙の瞬間に歓喜の声をあげ、 淫猥 な蛮族の女のように烈しく身体を痙攣させる。

身を焼き滅ぼすような想い

突き昇ってくる熱の魅力に 抗えない

彼女を抱きたくて気持を高ぶらせていた

こみ上げて来る嬉しさと恋しさとで、口が利けなくなってしまった。

所詮恋というのははかないものだ。雪の溶けるように、いずれ溶けてしまう。