頭の中の記憶を確かめるようにちょっと間をおいてから、ゆっくりと答える

記憶をめくり返して考え込んでいる

（旅の思い出話を）話している間じゅう水島の目は、幻を追うようにうっとり見開かれている。

記憶があぶり出しのように浸み出てくる

とりとめのない記憶が散漫に流れる

乃武夫が、 「クジラオカ」 　と 呟いた。 　なにかを 反芻 するような、意味のこもったいい方に聞えた。

（以前住んでいた町を歩く）彼は往来に立ち竦（すく）んだ。十三年前の自分が往来を走っている！　――その子供は何も知らないで、町角を曲って見えなくなってしまった。彼は泪（なみだ）ぐんだ。何という旅情だ！　それはもう嗚咽（おえつ）に近かった。

記憶が眠る山を鶴嘴（つるはし）で必死に削り、中から重要な情報を掘り出そうと試みる。

（新聞の活字が）しみのように網膜をはなれず

叫び声が今でも耳に焼き付いている