大森林の大木のように日光を吸収して枝をひろげ葉をひらいて行く高層建築の林立。

（古びた見張り台）ひっそりと立つ塔の姿は、寂しげで、老いた人間のようだった。老年期を迎えた人間が「誰もわたしを覚えちゃいない」と呟く姿を思わせた。

大寺院の前に立ち、高い塔や円（まる）屋根をながめた時、なにか無気味にさえ感じました。実際それらは天に向かって伸びた無数の触手（しょくしゅ）のように見えた

太い鉄材の組合せの縞が直（じ）きに平らな肌になり、細く鋭く天を衝（つ）く遥かな上空の針の尖（さき）に豆のような三色旗が人を馬鹿にしたようにひらめいていた。

高層ホテルが反り返っている

暖簾のかかった大衆食堂

最上階の踊り場から屋上に続く、ビルの壁に埋め込まれた垂直のハシゴ

人通りの絶えた四条通は稀（まれ）に酔っ払いが通るくらいのもので、夜霧はアスファルトの上までおりて来ている。両側の店はゴミ箱を舗道に出して戸を鎖（とざ）してしまっている。所どころに嘔吐（へど）がはいてあったり、ゴミ箱が倒されていたりした。喬は自分も酒に酔ったときの経験は頭に上り、今は静かに歩くのだった。

コンクリートの壁に走ったひびは「どうせそのうちにそっくりとり壊されるのだから、とくに気にしないでもらいたい」と言葉少なに訴えかけているように見えた。

綿菓子のじいさんは、この寒空に雨が煙っているのに、何時までもガラガラと真鍮の車をまわしていた。