天井が全部鏡の部屋

夜になるとこの道を通る車は殆ど一台もなく、山肌から横に伸びた樹が目隠しとなって、お金のないカップルにとっては（車内が）格好の密室となる

安手の芳香剤のにおいが漂うホテルの部屋で、水島に抱かれ水島の声を聞いているこのときがむしろ、遠い記憶の一場面であるような感覚に陥る。

何千人もの男女が交合を重ねたこのベッド

『ユリイカ』という店……いや、店とは言えないほど狭い小屋について、もう少し説明を加えておこう。もとはと言えば湘南の 鵠沼海岸の、海の家近くに置かれていたワゴンだった。 　海水浴客のためにサンドイッチやソーダ水を売るボックス式ワゴンである。雪で作る「かまくら」を少し大きくしたような、屋根つきの白いブースを想像してもらえばいい。

小ぢんまりとした料亭

電気科学館の茶色の高い建物が見え始めた。プラネタリウムの銀色のドーム屋根は灰色の空の中に鈍く輝いていた。

コーヒーポットから噴きあがっている湯気が、低い天井に当たってゆっくり店内に 拡がっている。

埠頭に並んでいる巨大なガントリーグレーンの列も、夢の地平線上に立ったまま死んだキリンの骸骨の列のようだ。